SEOコンサルタント改め、SEOスペシャリストの外山です。

最近、とあるお客さんからこんな質問を受けました。

「自社サイトに記事系コンテンツを展開していく場合、今までと同じようなやり方で良いのか? ユーザーがよく検索する(=検索ボリュームが大きい)キーワードに対して、検索ニーズを満たす記事を作っていくという従来のコンテンツSEOのやり方を、変えていく必要はあるか?」

ユーザーの検索手段の中に「生成AI」という選択肢が登場し、Google検索においても、AIによる概要(AI Overviews)やAI modeが登場するようになった現在、同じような悩みを持たれている方も多いのではと思います。人間が「検索」という行為をする以上、その検索行為に「寄り添う」という(広義の)SEOの意義は決して薄れることはなく、これからも必要であるとは思います。しかしながら、その方法論は今後(現在も既に)大きく変化していくと思われます。

「これからの時代、コンテンツを作っていく意味はあるのか」

そんな問いに真摯に答えるには、今一度、人間はなぜ「検索」するのかということを、一段掘り下げて考えてみる必要があると考えました。本ブログでは、人間がなぜ検索するのか、その検索の目的や、目的に沿ったコンテンツの種類、そして検索手段の変遷を、私なりの考えでまとめてみました。やや長文になりますが、お付き合いいただけますと幸いです。

1. 情報検索における3つの欲求

人はなぜ検索するのか、その根底には、人間の3つの欲求があると私は考えます。人間の3つの欲求というと、食欲・睡眠欲・性欲の生理的欲求がよくあげられますが、情報検索においては、知りたい・成し遂げたい・安心したいという3つの欲求が根本にあると考えます。

a.知りたい(=知識の習得)

  • 自分がまだ知らないことを理解したい。
  • 世の中の仕組みや真実を明らかにしたい。

b.成し遂げたい(=目的の達成 / 問題の解決)

  • やりたいこと・夢・目的を達成したい。
  • 目の前にある問題(=現状と理想の「差」)を解決したい。

c.安心したい(=他者との共感/共鳴)

  • 他人の考えや体験を通じて、自分の選択を肯定したい。
  • 気持ちや判断に「自信」を持ちたい。

以下、それぞれについて解説していきます。

a.知りたい(=知識の習得)

人間には「知らないことを分かりたい」「分からないことを解明したい」という純粋な欲求、「好奇心」があります。この好奇心は、世の中の様々な「原理」や「道理」を解き明かしていく営み、すなわち「科学」の原動力となってきました。

知らないことや分からないことがある時、人は不安になると同時に、ワクワクもします。知らないことが分かるようになった際の喜びは、更に次の疑問へと、人々を向かわせます。そうして解き明かされてきた「知識」の積み重ねが、今の現代社会の土台となっています。

疑問を解消し、好奇心を満たし、「知の空白」を埋めること、それが情報検索の第一の目的です。

b.成し遂げたい(=目的の達成 / 問題の解決)

人生とは「行動」の連続であり、積み重ねです。そして1つ1つの行動には、大なり小なり「選択」と「判断」が伴います。この「選択」と「判断」をより「正しいもの」とするために、人は情報を検索します。これは組織においても、あるいは社会においても同じことです。

この「選択」と「判断」のための検索は、以下の4つの種類があると考えます。これは問題解決の思考プロセス(=課題の定義 → 解決策の探索 → 意思決定)そのものでもあります。

  • 目的の明確化(「何がしたいんだっけ?」に対する検索)
  • プロセスの明確化(「どうすれば良いんだっけ?」に対する検索)
  • 選択肢の抽出(とりうる選択肢の幅を広げるための、「さぐる」ための検索)
  • 選択肢の評価(選択肢の幅を狭め意思決定するための、「かためる」ための検索)

目的の明確化は、自分(あるいは組織/社会)が向かうべき「理想の状態」をかためるための検索です。「理想の状態」が定まってはじめて、「現状」との埋めるべき差(=問題)が定義できます。プロセスの明確化は、その「差」を埋めるために、どのようなこと(=タスク)をどのような手順(=プロセス)で行わなければいけないのか、プロセスやタスクを漏れなく抽出するための検索です。

一個一個のタスクやプロセスが明確になった後は、取り得る選択肢(=オプション)を考えます。この情報検索は、「バタフライ・サーキット」にもあるように、選択肢を「広げる」ための「さぐる」検索と、選択肢を「狭め」意思決定を行うための「かためる」検索とがあると考えられます。人はこの「さぐる」検索と「かためる」検索を行ったり来たりしながら、最終的には1つの解を選択し、判断します。

目の前の問題を解決し、目的を達成し、「次の行動」につなげること、それが情報検索の第二の目的です。

c.安心したい(=他者との共感/共鳴)

選択と判断には不安が伴います。つねに「正しい」選択と判断をできる人間など存在しませんが、人間はできるだけ「正しい」選択と判断をしたいという考えに、囚われてしまいます。自らが取った行動が「正しかった」と、確認しようとします。そのため人は、自分以外の「他者(=第三者)」の考えや体験を検索し、他者と共感/共鳴することで、不安を確信に、迷いを決意に変えて、安心しようとするのです。

他者との共感/共鳴により、「不安」を「確信」に変え、「迷い」を「決意」に変えて「自信」につなげることが、情報検索の第三の目的です。

以上、3つの欲求と検索の目的をまとめたのが下表になります。

人間の欲求 検索の目的
知りたい
=知識の習得
疑問の解消
好奇心の充足(好奇心を満たす)
成し遂げたい
=目的の達成
目的の明確化
プロセスの明確化
選択肢の抽出(選択の幅を広げる/「さぐる」)
選択肢の評価(選択の幅を狭める/「かためる」)
安心したい
=他者との共感
不安の解消
賛同の獲得
自信の醸成(自己肯定感を高める)

2. 検索の目的に沿ったコンテンツの種類

以上、情報検索の背景にある3つの目標と、情報検索の目的を考えてきました。そしてその情報検索の目的を満たすために、様々なコンテンツがあると考えられます。それらをまとめてみたのが下表と、下図になります。

人間の欲求 検索の目的 コンテンツの種類(例)
知りたい
=知識の習得
疑問の解消
好奇心の充足(好奇心を満たす)
基礎的な解説記事
FAQ、用語集
成し遂げたい
=目的の達成
目的の明確化
プロセスの明確化
選択肢の抽出(選択の幅を広げる/「さぐる」)
選択肢の評価(選択の幅を狭める/「かためる」)
ポイントまとめ記事
HowTo/手順解説
チェックリスト
比較・ランキング
おすすめ・○○選
深掘り記事・事例集
安心したい
=他者との共感
不安の解消
賛同の獲得
自信の醸成(自己肯定感を高める)
体験談・インタビュー
レビュー・口コミ
掲示板・SNSまとめ

3種類の欲求に基づく検索の目的とコンテンツの整理

3種類の欲求に基づく検索の目的とコンテンツの整理

ユーザーの検索ニーズを満たすコンテンツを用意することは、SEOの基本ではありますが、そのユーザーの検索ニーズは、上図でまとめたように多岐にわたります。そしてこれらのコンテンツには、生成AIが得意とするものもあれば、人間でしか(今は)生み出せないものもあります。例えば、単純な知識の習得を目的とした用語集やFAQコンテンツは、「AIによる概要(AI Overviews)」に取って代わられる可能性はありますが、他者との共感/共鳴を目的とした「体験談」や「インタビュー記事」は、人間でしか生み出せません。

生成AIの登場により、コンテンツ作成の方法は大きく変化しました。コンテンツの種類によっては、生成AIに任せた方が効率的なものもあるかもしれません。一方、ユーザーが求めているコンテンツは実に多岐にわたり、ユーザーの検索ニーズ「すべて」を、生成AI「のみ」で充足することは、少なくとも今は、不可能であると思います。コンテンツの最終的な読み手が「人間」である限り、「人間」がコンテンツ作成のプロセスからいなくなることは、あり得ないでしょう。

3. 検索手段の変遷

「これからの時代、コンテンツを作っていく意味はあるのか」

この問いに対して、私は自信を持って「意味はある」と答えることができます。ただし、従来のSEOがそのまま通じるかというと、そこは「イエス」とは言えません。

人間が情報を検索する背景にある欲求や、その目的は変わらずとも、人間が情報を検索する手段は、大きく変化してきました。その変化を生成AI(ChatGPT)にまとめてもらうと、下表のようになります。

時代 検索手段 特徴・背景
古代〜中世 人に尋ねる(口伝・対話) 村の長老・師匠・巫女・旅人など、経験者に直接尋ねるのが基本。知識は「人に宿る」。
書物を読む(巻物・石板) 一部の識者層に限られた手段。知識は蓄積されるが、検索性は低い。
近世(活版印刷以降) 辞書・事典・目録で調べる アルファベット順・五十音順など「索引」による検索が可能に。図書館の発展も追い風。
図書館・文献アーカイブを利用 目録カード(カードカタログ)や分類法(十進分類法など)によって情報へのアクセス性が向上。
20世紀 百科事典・雑誌・電話帳など 紙のメディアが最も広く使われていた時代。「家庭の百科事典」は知識の宝庫。
専門家・コールセンターに問い合わせる 官公庁・病院・会社の窓口などを通じた「人力検索」。
1990年代〜2000年代初頭 電子辞書・CD-ROM辞典 索引・ジャンプ機能付きの検索が可能に。語彙・例文検索などの精度も向上。
Yahoo!カテゴリ型検索(人力ディレクトリ) 今の「タグ」や「分類」的な役割。手作業で分類された「検索前提型」のナビゲーション。
2000年代中盤〜現在 Google・YouTubeなど検索エンジン キーワードベースの全文検索。「探す」から「見つかる」時代へ。
SNS・掲示板・レビューサイト 他人の体験や意見を「検索」して確認。共感や安心を得る行動。
ChatGPTなど生成AIとの対話型検索 自分の問いに「自然な言語」で返ってくる。調査・要約・構造化なども可能。

この表をみると、現在のGoogle検索のような「キーワードベースの検索」は、実はごく最近の検索手段であることが分かります(それ以前の、カテゴリ型(人力ディレクトリ型)検索は懐かしいですね)。そしてこの「キーワードベースの検索」に加えて、「対話型」の検索が、徐々に増えていくことが想像されます。

キーワード型の検索では、ユーザーは自分が調べたいことを簡単な単語の組み合わせである「キーワード」として表現する必要があります。そしてコンテンツの作り手も、キーワードを意識して(例えば記事タイトルにターゲットキーワードを盛り込むなどして)コンテンツを作成してきました。

しかし対話型の検索では、ユーザーは自らの調べたい言葉を文章の形で質問することができます。とすると、これからのコンテンツ制作は、キーワードよりもむしろ、ユーザーのどのような検索ニーズに答えたコンテンツであるのかを、より明確にすることが求められてくると思います。これはある意味、コンテンツの「キーワードからの解放」ということができるかもしれません。今までは「キーワード」という制約によって書けなかったコンテンツ(例えばキーワード検索には落とし込みにくい事例や体験談など)が、生成AIにより日の目を見ることが増えていくかもしれません。「ユーザーの本来の検索ニーズに根ざしたコンテンツ制作」が、これからのコンテンツ制作においては、より重要になるのではないかと、私は考えます。

4. まとめ

以上、本ブログでは、人間がなぜ検索するのか、その検索の目的や、目的に沿ったコンテンツの種類、そして検索手段の変遷を、私なりの考えでまとめてみました。本ブログが、生成AI時代のコンテンツ制作に悩んでいる方々の一助になれば幸いに思います。

(了)

Liner Notes(あとがき)

私がプリンシプルに入社して書いたブログは、このブログで19本目となります。思い返すと、初期の頃はアクセスログやクロールエラー、Search Console APIの解説といった、SEOマニアックな記事が多かったですが、最近は、SEOとは何かであったり、AI時代のネットリテラシーだったり、「正しい情報」を検索する際の心構えであったりと、書く内容が哲学めいてきたようにも思います。

今回のブログのテーマは、「人はなぜ検索するか」です。このテーマに関しては、以前執筆した「SEOとはユーザーの検索活動への「寄り添い」である」のブログで、「人生は選択と判断の連続だから」と結論付けましたが、今回は、これをもう一歩深く掘り下げてみたいと思いました。

私は、コンサルタントの価値とは「一歩先を読み、一段深く考える」ことにあると考えています。今回も哲学的なブログ記事となりましたが、いかがでしたでしょうか。次回の20本目のブログは、SEOマニアックな記事を執筆しようと思っていますので、しばしお待ちください。

(本当の了)

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外山大

東京大学大学院、修士課程修了。11年間の文部科学省勤務の後、ITベンチャーにてメール配信システムやウェブサイトの開発に従事。

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