Web広告においてリマーケティングは、コンバージョン(CV)獲得の一般的な施策として広く活用されています。しかしながら、CPAがなかなか改善せず費用対効果に課題を抱えているケースも少なくありません。
特に、高いパーソナライゼーション能力でCV獲得に貢献すると期待されるCriteoのような媒体でも、その効果を最大限に引き出せていないというケースも存在します。こうした課題に対して、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。
そこで本記事では、転職・求人サイトにおいてCPAが高騰していたCriteo広告に対し、どのような施策を実行しCV数の増加とCPAの削減を実現できたのか、具体的な事例を紹介します。
1. 抱えていた課題:CPAの高騰とCV数の不足
今回取り上げる転職・求人サイトでは、Criteo広告において以下の課題を抱えていました。
CPAの高騰:CriteoのCPAが他の獲得目的の媒体と比較して高く、時には2倍近く高い実績の時もありました。他媒体と比べ高いCPAが大きな課題となっていました。
CV数の不足:求人応募数(CV数)が全体的に少なく、それがCPA高騰の要因となっていました。CV数が少ないことは、Criteoの機械学習が十分に機能するための学習データが不足している可能性を示しています。これが、さらなるCPAの高騰や効果の伸び悩みを招いていると考えられました。
Criteoは通常、サイトを訪問したユーザーに対してパーソナライズされた広告を配信することで高いCVRを期待できる媒体です。しかし、このケースでは期待通りの成果が出ておらず、その原因として「ユーザーの質」に課題があるのではないかという仮説を立てました。
2. 施策の立案:ユーザーの質を高めるターゲティング戦略
既存のCriteo広告では、主に「リマーケティング」と「類似オーディエンス」を対象に配信が行われていました。これらのターゲティング手法は、サイト訪問者やその類似属性を持つユーザーにリーチできるため、一般的なアプローチとされています。
しかし、前述の課題を鑑み、よりCVRの高いユーザー層に絞り込んで広告を配信する必要があると判断しました。そこでCriteoのイベントセグメント機能で、カスタムオーディエンスの活用を考えました。
この施策の目的は、カスタムオーディエンスを活用してユーザーの絞り込みを行うことで、ユーザーの質を向上させることにありました。つまり、CVRの高いユーザーへ広告を配信し、求人応募数増加・CPA低下を狙った施策です。
ユーザーの絞り込みには、Criteo管理画面のオーディエンス項目からセグメントを作成する際に、セクションを活用してオーディエンスリストを作成しました。
今回追加したカスタムオーディエンスは、以下の2つです。
カスタムオーディエンス①:求人詳細ページを訪問したユーザーのオーディエンスリスト
転職・求人サイトにおいて、ユーザーが求人詳細ページを訪問するという行動は、単にサイトを閲覧しただけでなく、具体的な求人情報に関心を持ち、検討している可能性が高いことを示唆しています。トップページやカテゴリページを閲覧するユーザーと比較して、求人詳細ページにまで到達したユーザーは、より転職意欲が高いと推測できます。
このオーディエンスリストを作成することで、漠然とサイトを訪れたユーザー全体に広告を配信するのではなく、すでに特定の求人に興味を示しているユーザーにターゲットを絞ることが可能になります。
カスタムオーディエンス②:トップページ訪問ユーザーを除外したオーディエンスリスト
サイトを訪れるユーザーの中には、情報収集の初期段階にある層や、誤ってサイトにアクセスしてしまった層など、現時点での応募意欲が低いユーザーも一定数存在します。認知施策も配信しており、サイトに訪れるユーザーが全て転職に強い興味を持っているわけではないということも考えられます。
また、ある程度のターゲティングは行っているものの、ユーザーの量は多くても質はまばらという状態もあろうかと思います。特にトップページのみを訪問してすぐに離脱するユーザーは、現段階で広告を配信してもCVにつながる可能性が低いと考えられます。
そこで、このカスタムオーディエンスでは、既存のリマーケティングリストからトップページ訪問ユーザーを除外しました。この除外設定により、まだ具体的な転職活動に至っていないユーザーや、単なる情報収集目的でサイトを訪れたユーザーへの配信を抑制を目指しました。
3. 施策の結果:CPAの改善とCV数の増加
具体的な数値は記載できないのですが、上記オーディエンスを追加した結果、Criteo広告のパフォーマンスは施策実施前後で以下のような各指標の変化が発生しました。求人応募数は61%増加、CPAは36%低下と大きく改善しました。
変化率 | |
---|---|
表示回数 | -38.6% |
クリック数 | -49.3% |
クリック率 | -17.6% |
クリック単価 | +110.0% |
費用 | +2.9% |
求人応募数(CV数) | +61.5% |
求人応募率(CVR) | +300.0% |
獲得単価(CPA) | -36.3% |
求人応募(CV数)の増加
CPA低下に大きく貢献した指標は求人応募数です。クリック数の減少に対して、求人応募数が61.5%増加し、CVRの上昇にもつながりました。表示回数やクリック数が減少しているにもかかわらずCV数が増加していることから、ターゲティングの精度が向上し、より質の高いユーザーにリーチできたことがわかります。
クリック単価の上昇とその背景
クリック単価が上昇している点は一見するとネガティブに見えるかもしれません。質の高いユーザーにターゲットを絞った結果、クリックあたりのコストが上昇を引き起こしました。一方で、クリック単価の上昇をCVRが上回っており、CPAの観点では費用対効果は向上しています。
このことから、単に広告を配信するだけでなく、ユーザーの行動履歴に基づいた精緻なターゲティングが、CPA改善とCV数増加に不可欠であると考えられます。
さらに、以下のGA4の計測データからも、ユーザーの質の向上が裏付けられています。
直帰率 | セッション時間 | |
---|---|---|
全体 | 71.60% | 1分25秒 |
求人詳細ページ訪問 | 51.20% | 1分58秒 |
トップページ訪問除外 | 56.50% | 1分47秒 |
全体セッション時間が1分25秒であったのに対し、今回追加した求人詳細ページ訪問リストのセッション時間は1分58秒、トップページ訪問除外リストのセッション時間は1分47秒と、いずれもセッション時間が長い傾向にありました。
また、直帰率は全体で71.60%であったのに対し、求人詳細ページ訪問リストでは51.20%、トップページ訪問除外リストでは56.50%と、こちらも大幅に低下しています。
これらのデータは、特定の行動をとったユーザーがより深くサイトを閲覧し、エンゲージメントが高いことを示唆しており、施策の有効性を裏付けるものと言えるでしょう。
4. ユーザーの質とターゲティングの重要性
今回のCriteo広告のCPA改善とCV数増加の要因は、「ユーザーの質」に焦点を当てたターゲティング戦略の転換にあります。
求人詳細ページ訪問ユーザーの価値
「求人詳細ページを訪問したユーザー」をカスタムオーディエンスに追加したことは、今回のCPA低下における最大の要因です。
求人詳細ページへの訪問は、単なるサイト閲覧を超え、具体的な求人への関心と転職意欲の高さを示します。ダイナミック広告での適切なリマーケティングによって求人応募へと誘導できる可能性が高いユーザー層です。
無駄な配信の抑制による効率化
「トップページ訪問ユーザーを除外したオーディエンスリスト」の活用も重要でした。これにより、現段階で転職意欲が低いと判断されるユーザーへの広告配信を抑制し、無駄な広告費の消化を防ぐことができました。
限られた予算の中で最大限の成果を出すためには、このようなターゲティングも検討した方が良いです。
Criteoのイベントセグメント機能の活用
Criteoのリマーケティング広告における機械学習は非常に優秀ですが、期待通りの成果に繋がっていない場合は、ターゲティングセグメントの見直しによって改善が図れる可能性があります。
今回のケースでは、Criteoのイベント別のセグメント機能を活用し、ユーザーのサイト内行動をもとにリマーケティングを実施しました。その結果、より確度の高いユーザーに広告を届け、数値改善につなげることができました。
まとめ
この記事では、転職・求人サイトにおいてCPAが高騰していたCriteo広告に対し、どのような施策を実行したのか、具体的な事例をご紹介しました。
- Criteo広告のCPA高騰という課題に対し、転職・求人サイトで実行した「求人詳細ページ訪問ユーザー」のターゲティングと「トップページ訪問ユーザーの除外」という2つのカスタムオーディエンスを追加した。
- その結果、CV数が約61%増加し、CPAが約36%改善するという大きな成果が得られた。
ユーザーの行動深度に基づいた精緻なターゲティングが、Web広告の費用対効果を改善する事例となりました。
Criteo広告の成果にお悩みの方、あるいはCPA改善に課題を感じている方は、ターゲティングを見直してみてはいかがでしょうか。GA4の指標を活用して、ターゲティングの質を客観的に評価することも可能です。
今後もWeb広告の最新トレンドや効果的な運用ノウハウについて、情報発信を続けてまいります。ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。