デジタル広告戦略の土台として大切な考え方は、「単に知っている状態」に留まるブランド ”知名度” ではなく、価値が理解されているブランド ”認知度” の確立を目指すということです。

本コラムでは、このブランド “認知度”を築くために不可欠な、クリエイティブ制作の「型」について解説します。

知名度と認知度の違い

ブランド認知に関する施策を進めるにあたり、まずは「知名度」と「認知度」を明確に区別して理解することが必要です。

  • ブランド知名度: 知っている状態。名前やロゴを目にしたことがある、聞いたことがある、という理解を指します。
  • ブランド認知度: 理解している状態。ブランドが「どんな価値」を提供し、「どんな思想」を持っているのか記憶している状態を指します。

前者は極端に言えば、商品名やロゴを露出頻度でゴリ押ししても達成できてしまいます。つまりなぜそのブランドが素晴らしいかということは省略し、名前だけとにかく覚えてもらうだけに留まってしまいます。

しかし企業が目指すべきは、後者の「認知度」であるべきです。そして認知度の向上は、以下の2つの重要な成果に直結します。

  • 購買決定プロセスの「スタート地点」になる: 顧客が問題解決のニーズを感じた際に思い浮かぶブランドでなければ、購買検討の土俵にすら上がれません。価値まで理解されている認知度の高いブランドこそが、競争優位性を持ちます。
  • 価格競争からの脱却: 単に知名度が高いだけのブランドは価格競争に巻き込まれがちです。しかし価値が深く理解されているブランドは、顧客がその「品質」「信頼性」に対して対価を払うため、競合より高いプレミアム価格での勝負が可能になります。これはブランド・エクイティの核となります。

ブランド認知施策におけるクリエイティブの役割

ブランド認知を形成するためには、何よりもクリエイティブが重要です。

唯一の「フック」がクリエイティブ

ユーザーはSNSや動画プラットフォームの情報洪水の中で、わずか1〜3秒で広告を無視するかどうかを判断します(特に若年層)。つまり優秀なターゲティングや適切な配信面よりも、認知獲得の唯一の機会として重要になるのが、ユーザーの指を止める魅力的なクリエイティブです。

「ブランドらしさ」を伝える=ブランディングそのもの

クリエイティブの制作は単なる表現技法ではありません。「このブランドが何者で、顧客にどんな価値を約束するのか」というブランドアイデンティティを一貫して表現するブランディングそのものです。

その一貫した表現こそが、競合他社との差別化を生み、ユーザーの記憶に刻み込まれるための鍵となります。そして、単なる広告として消費されるのではなく、ブランドの哲学を体現します。

認知度を高めるクリエイティブ制作の「二軸思考」

単なる知名度から競合に勝てるブランド認知へと顧客とコミュニケーションを取るには、クリエイティブ制作の前に以下の二軸を徹底的に定義し、一貫性を確保することが成功の鍵となります。

①何を伝えるか:ブランドのパーパスと価値観

クリエイティブの核として、「企業や商品がなぜ存在するのか(パーパス)」「顧客にどんな本質的な価値を提供するのか(提供価値)」を明確に定義します。クリエイティブ制作は属人化しがちなので、組織的に共通認識を持つということをお勧めします。

【共通認識の項目の例】

  • 企業理念、ミッション
  • 大切にしている価値観
  • ブランドイメージが形成されるに至った、ストーリー・エピソード
  • ブランドを体現する理想的なユーザー像(価値観、ライフスタイルなど)
  • ブランドについてどのような印象や感情を持ってほしいか

など

【例】環境に配慮したオーガニックコーヒーブランド(食品)

項目 内容
ブランドのパーパス (なぜ存在するのか):環境と生産者の持続可能性を守りながら、最高品質のコーヒー体験を世界に届けること。
提供価値(核) 「罪悪感のない一杯」:美味しいコーヒーを飲むことが、地球と社会に貢献することに繋がるという、情緒的な満足感。
クリエイティブで伝えるべき「価値観」 (意識的な喜び):日々の小さな選択が世界を変えるという倫理観と、その中で得られる幸福感。
共通認識の例 ・生産者の笑顔をストーリーとして伝えること。
・パッケージは再生紙のみを使用すること。
・味だけでなく、飲む行為がブランド体験の一部であること。

【認知への効果】

一貫したパーパスの伝達は、ユーザーにブランドの倫理観や価値観を理解させ、情緒的かつブランド認知を形成します。

②どんな人に伝えるか:ターゲットのインサイト

こちらは単なる配信先のターゲットではなく、「ターゲット層が何を考え、何に共感し、何を求めているのか(インサイト)」を深く理解するということです。

【例】高機能ドライヤーの広告(家電製品)

ターゲットのインサイト:「朝の忙しい時間帯に、髪の手入れに時間をかけたくないけれど、手抜きだと思われたくない」という、時間と美意識の間で揺れる罪悪感と効率性の欲求。

【認知への効果】

的確なインサイトに語りかけることで、「これは自分に向けられた広告だ」という個人的な関連付けが生まれ、ユーザーが情報の中からそのブランドのメッセージを選び取る動機となります。これにより、広告が背景情報にならず、深い認知が確立されます。

まとめ:ブランド認知度を高めるクリエイティブとは

ブランド認知度を高めるクリエイティブとは、単にロゴや名前を目立たせる知名度クリエイティブではありません。

それは、ブランドのパーパスと、ターゲットのインサイトに基づき、ブランド独自の価値観を視覚的な一貫性を持って表現し、顧客の記憶に「価値の約束」を刻みつけるものです。

この一貫した戦略こそが、デジタル広告において深いブランド認知を確固たるものにし、最終的な購買とプレミアム価格での勝負を可能にするのです。

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阿久根景介

広告コンサルタント。過去に、国内大手家電メーカーのフルファネルの広告プラン策定・運用・PDCA伴走を経験。
日用雑貨メーカーのサイト制作ディレクションなどを担当。顧客のビジネス課題に対し、デジタルソリューションを通じて多角的な改善提案を実行。

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