はじめに

この記事は、a2i代表の大内さんの3月11日付メールマガジン記事「【コラム】正しく退化していくデータ分析のススメ」へのオマージュです。

大内さんとは、以下のような関係がありまして、同業者として、「同じ時代に、非常に似ているものを見てきた人」のように感じています。

  1. プリンシプルがa2iの株主会社の1社であり、大内さんはa2i代表
  2. 大内さんの著作「できるGoogle Analytics」の子孫にあたるのが拙著「できる逆引き Googleアナリティクス 実践ワザ260
  3. 大内さんはGoogle勤務時代が長く、GAの「中の人」。私は旧トップコントリビュータとして「外」でGAを使ってきた人
  4. 年齢が比較的近い
  5. 大内さんがa2iで企画したセミナーの講師として登壇させていただいたことが何回もある

その大内さんが、「データ分析は退化してく」、「もうGoogle アナリティクスを主たる分析対象とはしない」と書いています。

多くの人がインスパイアされたと思いますが、私もインスパイアされ、この記事の執筆に至っています。まだ、大内さんの記事を読まれていない方はご一読をお勧めします。

前提とする世界観

これまで:広告での新規顧客獲得が成功パターンだった

インターネットという新しいチャネルでお客様とつながり、新規にお客様となっていただく。これまではそれがビジネス成長の成功パターンであったと思います。

その成功パターンを実現するために最も重要な戦術は「Web広告」でした。かくして私たちは、コンバージョンを増やすという命題に対し、半ば刷り込みのように「Web広告でなんとかしよう」と思います。

これには実は一定の合理性があると思っています。直近の15年、以下のような環境が揃っていたからです。

  • 回線がだんだん早くなる
  • 端末がだんだん高度化する
  • インターネットに接続するユーザーが増え続ける
  • 広告上の競争は初期は今ほど激しくなかった
  • 広告のターゲティング技術が進化してきた
  • 広告のターゲティング技術使いこなしの優劣で差がついた

また、多かれ少なかれ、直近15年はインターネットの世界ではGoogleが王様だったことも、我々が「コンバージョンを増やすにはWeb広告で何とかする」というパラダイムを身に着ける背景にあると思っています。

これから:これまでの成功パターンの前提が崩れつつある

一方、これから、、、を考えると「Web広告で新規顧客を獲得する」のが勝ちパターンであった前提が(すべてではないにしても)結構崩れているのが分かります。(私見が入ります。)

  • 回線は5Gの登場で、今後きっと早くなる
  • 端末の高度化は続くが、これまでのように劇的にかどうかは少々疑問
  • インターネットに接続するユーザーが増えることは少なくとも日本ではなさそう
  • 今やWeb広告を行っていない事業者はおらず、Web広告上の競争は激しい
  • 広告のターゲティング技術の進歩はCookieの死でいったん緩やかになる
  • 広告のターゲティング技術は媒体側任せになり、使いこなしの差では差別化できない

とすると、今後は、Web広告による新規顧客の獲得ではなく、CRM分析で既存のユーザーの状況やニーズに合わせた「もてなし」を行い、LTVを増加すること。が勝ちパターンになると考えています。つまり、パラダイムを変える必要があるのではないか、ということです。

しかも:CRMでLTVを伸ばさないと広告でも勝てない

しかも、少し考えていただくと分かりますが、「Web広告で新規顧客を獲得する競争」で勝つには、(CPCの低下、CVRの改善はもちろんですが)「新規獲得したユーザーのLTVを高められる能力」が重要になります。

つまり、一人の新規顧客の初回購入金額が10,000円で、その後、まったくLTVを増やせない事業者の許容できるWeb広告のCPAと、一人の新規顧客の初回購入金額は同じく10,000円だが、その後の1年間でLTVをもう10,000円積み増して20,000円にできる事業者の許容上限CPAはおのずと異なり、後者の事業者の方がより積極的にWeb広告を利用して、新規顧客の獲得を伸ばしていけることになるでしょう。

つまり、極論すると、

  1. CRMで既存顧客からのLTVを増加させられない事業者はWeb広告で新規顧客獲得を行うことも難しくなる
  2. Web広告からの新規獲得顧客が増えなければ、CRM施策対象となる既存顧客が増えない

そういう時代なのではないか。ということです。

両輪のデータ分析とは

そんな前提に立ったとき、分析のタイプも2つに分かれてくるのではないかと考えています。

順引き分析

一つは「順引き」分析とでもいえるもので、従来からポピュラーなように、「キャンペーンAのCVRが5%で、キャンペーンBのCVRが10%だから、キャンペーンBに予算を振り向けましょう」とか「ランディングページCの直帰率がサイト平均よりZ%高いのでLPOを行いましょう」というように、サイト全体のCVRをいかにして上げるか?を目的とした分析です。

コンバージョンする前のユーザーが、コンバージョンするまでを分析するので「順引き分析(=とか頭からの分析)」と(個人的には)呼んでいます。

逆引き分析

もう一つは「逆引き」分析とでもいえるもので、冒頭で紹介した大内さんの指向する分析です。コンバージョンしたユーザーに絞って、GAが記録する「じっくり閲覧したコンテンツ」、「サイトをよく利用する時間帯」等を分析し、顧客理解を深めることを目的とした分析です。

コンバージョンしたユーザーが、する前にどんなふるまいをしていたのか?を分析するので「逆引き分析(=とか、お尻からの分析)」と呼んでいます。

逆引き分析は、すでにお客様になっていただいているユーザーを分析するので、Web上でのふるまいのみならず、住所、年齢、性別、(ECサイトであれば)注文回数、1回の注文金額の最大値、最小値、平均値、中央値など、詳細なデータも活用することができます。

両輪を回す分析とは

私がお勧めするのは、順引き、逆引き、両方の分析を行うことです。それらの分析は目的ごとに使い分けすべきものであって、「Web広告を通じた新規顧客獲得の効率改善」には順引き分析を、「CRMを通じた既存顧客のLTV改善」には逆引き分析を利用する。ということになります。

逆引きデータ分析(CRMデータ分析)にまつわるあれこれ

逆引きデータ分析(CRMデータ分析)のツール

順引きデータ分析を行うツールとしては皆さんがおなじみの、Google アナリティクスがありました。では、逆引きデータ分析にはどんなツールを利用すれば良いのでしょうか?

私見ですが、まだ、デファクトとなるような特定の目的特化型のツールは存在していないのだと思います。もしくは「まだ存在しない」のではなく、ずっと存在しないかもしれません。各社によってデータの持ち方が異なるためです。そこで必要となるのが、汎用的にデータを整形、可視化できる

「SQLとBIツール」

であると思います。今後、CRM分析に力を入れるマーケターの方にはぜひ、身に着けてほしいスキルです。私は、SQLを動かす基盤としては、arm Treasure Dataか、Google BigQueryを利用しています。BIツールはもちろんTableauがお勧めです。(SQLを相当高度に記述できる場合に限って、Googleデータポータルでも分析可能かもしれませんが、通常は難しいと考えたほうが良いです。)

逆引きデータ分析(CRMデータ分析)と機械学習

逆引きデータ分析を行う際、「1行1顧客」のデータを持つことになります。そのデータを可視化して、「年齢によるF2転換率(初回購入者に対する2回目以降購入者の割合)の違い」や「特定キャンペーンへの参加有無によるLTV伸び率の差」などを分析することになるからです。

そして、「1行1顧客」のデータは機械学習を利用して「データマイニング」、「予測」を行うのに非常に都合が良いです。a2iのメルマガの寄稿者である柳井さんが紹介している決定木による変数重要度分析が比較的簡単にできるデータの持ち方でもあります。

データマイニングや機械学習をデータ分析に取り入れるにあたっては、私はExploratoryを利用しています。一つのツールで、データ接続、データプレップ、データの可視化、機械学習や統計的仮説検定などの機能を持つ、非常に優れたRのUIです。(決定木のアルゴリズムも持っています。)

逆引きデータ分析(CRMデータ分析)の結果をWeb広告にフィードバック

逆引きデータ分析を行うと、例えば、「ユーザーのセグメント毎に、LTV増加に寄与するコンテンツは何か?」ということが分かります。ベタな例ですが、「高齢者には安全を訴求するコンテンツが有効なようだ=高齢者は安全性が高いということを魅力に感じて製品を購入してくれたのだろう」とか、「割引キャンペーンで顧客になった人は概してLTVが伸びないが、キャンペーン参加後、コンテンツ●●を見てくれた人は例外的にLTVが伸びている=コンテンツ●●で値段以外の魅力を訴求すればLTVが増加するかもしれない」などです。

そうした知見は第一義的にはCRM活動の精緻化に利用すれば良いと思いますが、発展させて考えると、Web広告を通じて、①そもそもLTVを伸ばしてくれそうなお客様を獲得する、②LTVを伸ばしてくれそうなコンテンツにユーザーを誘導するなどができると思います。

それがうまく行くと、もし、仮に、現状Web広告に行き詰っている場合でも、別の角度からの最適解が見つかるかと思います。

  1. 現状のWeb広告運用に頭打ち感を持っている
  2. 決定木による変数重要度分析をやってみたい
  3. 既存顧客のWebサイト利用状況の把握ってどうやるの

などのお悩みやご興味があれば、ぜひ、ご連絡ください。

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木田和廣

早稲田大学政治経済学部卒。取締役副社長。カスタマーサクセス室室長。チーフ・エバンジェリスト。

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