生成AIを使う機会がここ最近でぐっと増えてはいないでしょうか。

生成AIに問いかけるとき、多くの方が一度は経験しているのが「ハルシネーション(Hallucination)」です。あたかも正しそうに見えるけれど、実際は誤った答え。これを私はあえて「幻惑」と呼びたいと思います。

この幻惑を抑える"おまじない"として、すでに広く知られるようになったのが「ステップ・バイ・ステップで考えさせるプロンプト設計」です。

AIは万能ではありません。曖昧な問いを与えれば、曖昧な答えしか返ってきません。そこでAIに「順を追って考えさせる」ステップ・バイ・ステップのプロンプトを使い、思考の道筋を与えることが的確なアウトプットのための方策となります。これは、生成AI活用における現場の実務者にとって、もはや常識となりつつあります。

この記事では、私がReplitという開発プラットフォームを使って実感した、AI時代における工程設計の重要性についてお伝えします。

さらに一歩進めた「工程設計」の重要性

「ステップ・バイ・ステップ」の「ステップ」という言葉。実は、プログラミング開発の現場ではもう一段深い意味を持ってきます。

  • AIへの問いかけの「ステップ・バイ・ステップ」は、一度きりの対話の中での思考誘導。
  • 一 方、プログラム開発の「ステップ化」は、何度も手戻りし、検証し、修正しながら積み上げていく反復の工程。

同じ「ステップ」という言葉を使いながらも、一度の思考整理と反復的な工程設計とでは、実は全く異なる整理力が求められるのです。

私は今回の開発の中で、この「工程設計としてのステップ化」こそが、生成AIをプログラミングに本格活用する上で極めて重要であることを再認識しました。

そのきっかけとなったのが、Replitとの出会いです。

Replitとの出会い 〜 わずか数十分で動くものを作れる時代

Replitは、Web上で完結するクラウドIDE(統合開発環境)です。Pythonはもちろん、Streamlit・FastAPI・HTML・JavaScriptなど、多くの言語がすぐに使えます。ローカル環境の面倒なセットアップも不要で、サインアップして数分で開発が始められるのが最大の魅力です。

私も最初にReplitに触れたとき、「わずか数十分で、HP生成ツールやStreamlitアプリが実際に動く」ことに驚きました。これはAI時代におけるプロトタイピングの強力な武器になります。

Replitを知らない方のために:ざっくりまとめ

特徴 内容
開発環境構築 不要(ブラウザ完結・インストール不要)
サポート言語 Python, JavaScript, HTML, FastAPI, Streamlit 他多数
実行環境 クラウド内で即実行・即デプロイ可能(Webアプリも即公開可能)
チーム開発 ブラウザ上でのリアルタイムコラボレーション機能
AI支援 Ghostwriter(コード補完・デバッグ・ドキュメント生成支援)

 

非エンジニアでも、AI×アプリ開発の「入口」に立つ敷居を劇的に下げてくれるツール

それでも「工程設計」は必要になる

Replitで爆速でアプリが動く一方で、私は次の課題を痛感しました。

  • 少し複雑な要件になると、全体像がブレやすくなる
  • AIにコードを書かせるだけでは、完成品として破綻しやすい
  • 単なる「一回限りの応答」ではなく、「プロセスを伴う開発」には整理の枠組みが不可欠

そこで私が重視したのが、以下の3つの切り口での整理です。

① VMC構造による整理

VMC(View-Model-Control)という考え方で、AIに書かせるコードの役割を整理します。

  • View:画面や入出力のUI部分(例:Streamlit)
  • Model:データ処理や計算ロジック
  • Control:フロー制御や例外処理

AIに対しても「いまはViewを書いて」「Model部分だけ整理して」と区切って依頼すると、幻惑の少ないコードが返りやすくなります。

② V字モデルでの要件整理

これはシステム開発で古くから使われるV字モデルです。要件定義〜実装〜テストの各フェーズを意識して、AIへの問いかけ内容を整理します。

  • 要件定義 → どんな動作を期待するのか
  • 設計 → 入力・出力のデータ設計はどうか
  • 実装 → まずはModel部分だけ作る
  • 単体テスト → 入出力サンプルで動作確認

このV字モデルを意識するだけで、AIのアウトプット品質は段違いに安定します。

③ 段階レベルの整理

一気に全部のコードを書かせようとせず、段階を細かく区切ることが極めて重要です。

  • ステップ1:基本動作だけの最小構成を作成
  • ステップ2:エラーハンドリングの追加
  • ステップ3:例外ケースの対応
  • ステップ4:入出力の整形・UI改善
  • ステップ5:実用的なバリデーション

この段階設計により、「ステップバイステップでAIがコードを成長させる」プロセスが実現します。

一度きりの「問いかけ」から「工程管理」への進化

冒頭でも述べた通り、「ステップで考えさせるプロンプト技術」はもはや常識となりました。しかし、プログラミング開発の現場においては、プロンプト設計のその先にある「工程管理としての分解力」こそが、AI活用の成熟度を左右します。

  • 思考の工程管理
  • 実装の工程管理
  • 品質確認の工程管理

AIが爆速でコードを書いてくれる時代だからこそ、人間が「整理と分解」に注力するべきなのです。

まとめ 〜 AIプログラミングは「段取り力」が武器になる

  • ReplitはAI×プログラミング時代の強力な土台
  • だが、工程整理がなければAI開発は破綻する
  • VMC整理・V字モデル整理・段階整理の3本柱が有効
  • AI開発こそ"段取り力"の世界である

AI時代のプログラミングとは、コードを書くことそのものではなく、「書かせ方をデザインする技術」に他なりません。これからAIとともに開発に取り組む方の一助になれば幸いです。

感謝の言葉

なお、今回のAIプログラミングにおける新たな取り組み、そしてReplitとの出会いのきっかけを得ることができたのは、弊社プリンシプルにてAIツール活用のコンサルティング支援をいただいたスペシャリスト・池田朋弘氏の伴走があってこそです。

改めて、この場を借りて心より感謝申し上げます。

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小柳貴志

20年以上にわたり、ソフトウェアメーカーやSIerにおいて、サービス構築やビジネスインテリジェンスの導入など、コンサルタントやプロジェクトマネージャーとして従事。現在はプリンシプルとしてサービス横断的な案件を担当。

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