はじめに

5回シリーズでお届けしてきた「海外進出で重要なこと」。最終回の今回は、当社アメリカ法人の事例をあげながら、海外での人事採用のポイントについてお伝えしようと思う。

海外での人事採用のポイント

最初に伝えたいのは、アメリカ人の働き方が、実に多様であるという点だ。フレックス制はもちろんのこと、リモートワークなどは珍しいことではないし、兼業でいくつかのプロフェッションを持っている人も大勢いる。安倍内閣が取り組む「働き方改革」でも、副業・兼業推進を促進するなど、日本でも最近その動きは顕著になりつつあるが、欧米型に日本が追いつくのは、もう少し先なのではないかという印象だ。

アメリカの場合は、必然的に働き方に多様性を認める流れになる場合がほとんどである。それはアメリカ企業が、完全なゴール主義を基本としているためだ。企業は採用時点において、求職者に対し、明確な職務内容を明示する必要がある。その人物に期待するゴールを伝えたら、採用された側がすることは、一気にそこに邁進し、結果を出すということになる。

第5回 海外進出で重要なのは (全5回シリーズ)「現地での採用のポイント」

一方で日本企業の場合は、その人物がその企業の「一員」として機能するか否かを見極めることが、人事採用では重要視される傾向にある。昇給・昇進などについてもある程度パターン化されたルールに従った形で行われるだろうし、企業が何より社員に求めることは企業への「忠誠心(ロイヤリティ)」であったりする。しかしアメリカ企業が重要視するのは、あくまでその「個人」とかわした職務内容の方だ。そのため、企業も採用される側も、採用契約書に書いてあることを成し遂げること以上に、ビジネスにおいて誠実なことはないと考えることになる。

在米日系企業の人と話すと「アメリカ人は自分の仕事しかしない」、「残業しない」ということを耳にするが、「求められたことをやり遂げ、早く家に帰る」というのは、アメリカ人からすると、何もおかしくはないのだ。結果がしっかり出れば日本企業にありがちな「固定就業時間制」が、あまり意味をなさないのはこのためである。

その他日米の違いでいうと、アメリカでは「職務内容」に書かれたゴール達成が成されない場合や、日々のパフォーマンスが悪ければ、あっさりと解雇してしまうことも珍しいことではないという点がある。そうなっては困るから、アメリカ人たちは必死で働く。また、企業側も社員に与えたゴールがブレないように、崇高なビジョンを見せ続けねばならない。採用時に説明したミッションから外れることをしようとしたら、働く側も納得しない。つまり、企業と社員の立場はイコールなのだ。

そのため、社員はパフォーマンスを達成しにくい問題が企業側にあるのであれば、率直に意見を言うことを恐れない。疑問や懸念があっても、社員が会社の言う通りに、「黙って指示に従う」というようなことは、アメリカ企業ではほとんど起こらないのだ。このように、現地で人を雇うのであれば、こうした働き方や仕事への意識の違いを採用する側が理解しておかないといけない。

第5回 海外進出で重要なのは (全5回シリーズ)「現地での採用のポイント」

それが国内であろうが海外であろうが、「人が働きたい」と思うような組織作りは、経営者の務めでもある。「人」は企業成長の要だ。当社は日米に拠点があるので、日本においても、アメリカ型の人事システムを導入している。個人の人格、生き方、スキルの軸を尊重し、企業の理念を共有する機会は何より大事にしている。リモートワークや、正社員であっても出社日数をライフスタイルに合わせ働ける雇用形態を設けるなど、優秀な人材が気持ちよくゴール達成できる場を用意している。個人の成長なくして、企業の成長などないのだ。

プリンシプルのアメリカの拠点では、アメリカ人の「プレジデント」を採用した。このシリーズでも述べてきたように、海外へ進出する場合には「現地市場を知る優秀な人材が不可欠」ということもあり、人事採用には時間をかけた。彼を口説くまでにかかった時間は約1年。小さな案件発注をきっかけに、大切に信頼関係を構築したが、ミッションやビジョンの共有は何よりも重要視した。

まとめ

既成概念を打ち破り、日米の差異を越え、ミッション達成するのは並大抵のことではないだろうが、こうして事業を続け努力し続けられるのも、素晴らしい人材のおかげと思っている。

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楠山健一郎

国際基督教大学卒。シャープ、サイバーエージェント、トムソン・ロイターを経て株式会社プリンシプル設立。

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