米国の広告ターゲティング戦略は今後、さらに複雑になっていきます。したがって、海外・米国進出には米国市場のさらなる理解が欠かせません。

アメリカは人種、宗教、ネットワース(世帯・個人)、人口など、非常に多様な国です。米国市場をターゲットとしているマーケターは、多様な人口動態を理解し、広告のターゲティング戦略に応用できるようにしなければなりません。

そこで、この記事ではアメリカ国民の多様性の実態と、多様な国民に対し効果的にターゲティングする考え方、現地感覚について紹介します。

記事の内容

  • アメリカ国民の多様性(家族構成、人種、年齢、所得)
  • 効果的なターゲティングにはDMAが不可欠
  • ポイント整理:目的に合わせた地域別・デモグラのターゲティング戦略

アメリカ国民の多様性(家族構成、人種、年齢、所得)

アメリカ国民は非常に多様で、マーケティング、ターゲティングにおいても考慮に入れる必要があります。

例えば、人種の割合は変わり続けています。2020年の大統領選挙の時期には、米国の有権者の中ではヒスパニック系が最大の人種グループになると推定されています(白人除く)。

同様に、家族構成も変わり続けています。

以下では、米国国民の多様性を、人種・年齢・所得の軸で見ていきます。

人種:地域別に大きく異なる

人口の増減は、人種別、州別で大きく異なります。

例えば、ヒスパニックの流入量と人口の増減量を比較すると、「人口は減っているがヒスパニックは増えている」「ヒスパニックの流入が人口増加を上回っている」「ヒスパニックの流入を上回って人口が増加している」の3つに分けられます。

参考:Where the U.S. Hispanic population grew most, least from 2010 to 2019 | Pew Research Center

また、黒人やアジア系の割合も州によってマチマチです。


各州の黒人の人口と割合(BlackDemographics.com より)


アジア系が多い州(The Office of Minority Health より)

ご自身が扱う商品・サービスのターゲットは必ずしも全米のメジャーな都市に集中しているとは限りません。事前にリサーチする事をおすすめします。

▼多様な人種を抱える大都市

人種的に多様な大都市Top10は上から順に下記のようになっています。

  1. カリフォルニア州・ストックトン
  2. カリフォルニア州・オークランド
  3. カリフォルニア州・サクラメント
  4. ニューヨーク州・ニューヨーク
  5. カリフォルニア州・ロングビーチ
  6. カリフォルニア州・サンノゼ
  7. テキサス州・ヒューストン
  8. カリフォルニア州・ロサンゼルス
  9. カリフォルニア州・フレズノ
  10. イリノイ州・シカゴ

ここから、多様な都市はカリフォルニア州に多く存在していることがわかります。

参考:The 10 Most Racially Diverse Big Cities in the the U.S. | Cities | US News

これらの多様性のある都市を把握すると、広告のA/Bテストを効率よく進められます。例えば、全米各州に広告を入稿する前に、少ない予算で多様な人種ミックスがいる都市に広告のテストをすることが考えられます。

年齢:ミレニアル&Gen-Z世代

1980~1995年生まれは「ミレニアル世代」、1995年~生まれは「Gen-Z世代」と呼ばれています。ミレニアル世代は米国最大の成人世代であり、Gen-Z世代とスポットライトを共有し始めています。

例を挙げると、近年、結婚をしていない親が増加傾向にあります。1968年には7%だったのに対し、2017年には25%と、実に親の1/4が未婚です。

参考:6 demographic trends shaping the U.S. and the world in 2019 | Pew Research Center

若い世代が経験している環境は、年配の方の経験・環境と違う事も多くあります。これらの価値観の変化を念頭に、マーケティングも進めなければなりません。

ミレニアル世代

  • 大事なこと:良いイメージを維持する
  • モチベーションの源:社会的、専門的な地位
  • 趣味:芸術、写真
  • 好きなSNS:Tumblr
  • 買い物の仕方:実店舗で探しオンラインで購入

Gen−Z世代

  • 大事なこと:変化し、人々を導く
  • モチベーションの源:エキサイティングな生活
  • 趣味:TVゲーム
  • 好きなSNS:Reddit
  • 買い物の仕方:店内でモバイル経由で価格を確認

格差・富裕層セグメント

収入で見ても、地域差が見られます。

▼超富裕層 UHNW

投資可能な資産が3,000万ドル(=約33億円)以上ある人は、UHNW(=Ultra High Net Worth 超富裕層)と呼ばれています(世界に265,490人おり、合計で32.3兆ドル(=約3,500兆円)以上を所有)。

このUHNWの半数は北米に住んでおり、UHNWが多い州は上から順に、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、サンフランシスコ、ワシントンDCとなっています。

また、以下はUHNWが多い都市です。

  • ニューヨーク市:8,980人
  • ロサンゼルス 5,295
  • シカゴ 3,350
  • サンフランシスコ:2,925
  • ワシントンD.C.:2,785人

▼補足:格差は拡大

アメリカでは近年、高所得層と中所得者層及び低所得者層の所得差が大きく開いています。中所得層は減少した一方で高所得層は増加し、低所得者層はほぼ横ばいとなりました。

ミリオネアーセグメント

上記UHNWはカリフォルニア州やニューヨーク州に集中していますが、ミリオネアーセグメントの傾向は異なります。高所得者が集中して住んでる街や州のイメージをお持ちかもしれませんが、あまりそのイメージには頼らない方が賢明です。

ミリオネアーの割合が多い州Top5

  1. New Jersey 9.76%
  2. Maryland 9.72%
  3. Connecticut 9.44%
  4. Massachusetts 9.38%
  5. Hawaii 9.20%

参考:Millionaires in America 2020: All 50 States Ranked | Kiplinger

効果的なターゲティングにはDMAが不可欠

米国で地域を絞ってターゲティングする際には、DMAが不可欠です。

DMAとは

DMA(Designated Market Area)は、ニールセン社によってローカルテレビ視聴が測定されている米国内のエリア区分です。全部で210のDMA区分があり、アメリカ大陸全体、ハワイ、アラスカの一部をカバーしています(DMAの境界線とDMAデータはニールセン社が独占的に所有。)。

DMAデータはマーケティング担当者、調査員、または組織にとって不可欠となっています。

DMAの活用例

  • 複数のメディアにわたってローカル広告とダイレクトマーケティングキャンペーンをターゲティング
  • 各地方のテレビ市場で広告を打つ
  • 各地方の研究サンプルを選択する
  • データをローカルテレビ市場ごとにセグメント化と分析

参考:dma-maps – Nielsen

ターゲット施策にDMAが必要な理由

▼理由1. 簡単に利用できる

ニールセン社は、Googleと連携しているデータ管理パートナー(DMP)で、広告主にジオターゲティング用のゾーンを無料で提供しています。

使用する際にサインアップや登録、アプリケーションは不要です。プラットフォーム上に存在しており、どのキャンペーンでも今すぐターゲティング可能となっています。

▼理由2. ターゲティングに適した区分け

Google Adsのキャンペーンをオハイオ州の特定の都市で打ちたい(デイトンとコロンバスはターゲットにしたいが、クリーブランド、アクロン、トレドはターゲットにしたくない)という場合でも、DMAを使用すれば対応可能です。

「州別にターゲットを絞る」場合には、カバーするエリアが広すぎるという問題が生じます。

(例)シリコンバレーのようなテックリテラシーが高いカリフォルニア州の人に広告を入稿したい場合:
カリフォルニア州の全体に広告が届く(=主要なテクノロジーセンターの近くにいない人にも届く)。

「郵便番号や都市別にターゲットを絞る」場合は、通勤などの地域間移動に弱いです。ターゲットとしている新興企業の従業員が、市外に住んでいて通勤している場合には除外されてしまうのです。

したがって、DMAを活用すれば、より詳細に、実生活に即してターゲティングすることが可能になります。

ポイント整理:目的に合わせた地域別・デモグラのターゲティング戦略

アメリカのような大きな国では、広告予算を早く無駄に消化してしまうこともあります。賢いターゲティング設定だけではなく、ABテストなどでPDCAを回す事も欠かせません。

以下は、地域別ターゲティングで考えるべきポイントです。これらを網羅し、どうすればよりよい成果を上げられるか、試行錯誤してみてください。

ロケーションを選択する上で考えるポイント

  • 国別:大陸、国
  • 言語
  • エリア:州、市、郵便番号、ビジネスの住所、DMA
  • グループ:人種、所得、年齢、宗教
    (※人種や宗教でのターゲティングができない場合が多い。その場合、ターゲットセグメントの属性、興味、習慣、言語、住んでるエリアなどで絞る)
  • 範囲:人の動き・行動

A/Bテストで考えるターゲティング施策

  • 多様性のある都市で広告テスト
  • 州や都市を跨いだ広告テスト
  • デモグラフィックに考慮した地域別ターゲティング

FB広告の例

  • Everyone in this location (default) <この場所にいる全員(デフォルト)>
  • People who live in this location <この場所に住んでいる人>
  • People recently in this location <最近この場所にいる人>
  • People traveling in this location <この場所を旅行する人>

Googleの例

  • Interested in (default) <興味のあること(デフォルト)>
  • Regularly in <定期的に>
  • Searching for <検索する>

まとめ

  • アメリカ国民は多様なため、エリアによって属性はかなり異なる(特に、年齢、人種、所得、DMA観点、言語、宗教)。
  • そのため、扱うサービスのターゲットによって言語、興味、地理的な差を考慮すべき(例えば、アジア人を狙ったサービスと、ヒスパニックをターゲットにしたサービスとでは、広告の設定が大きく変わる)。
  • ニールセンのDMAはTV広告だけではなく、マーケティング観点での地理的ターゲティング要素にも活用できる。
  • 地域ターゲティングをただのイメージで設計しないよう要注意。

この記事では、アメリカ国民の多様性の実態と、多様な国民に対し効果的にターゲティングする考え方についてご紹介しました。アメリカでのマーケティング活動の一助となれば幸いです。

プリンシプルはアメリカにもオフィスを持っており、より現地のトレンドに沿った、充実したコンサルティングが可能です。米国でのデジタルマーケティングや広告でお困りの方は、ぜひPrincipleにお問い合わせください。

»お問合わせ

お気軽にご質問、ご相談ください

関連タグ

Kris Irizawa

Logitechなどのシリコンバレー・スタートアップ企業で9年間マーケティング解析を経験。プリンシプルアメリカの解析ディレクターとしてLA在住。

関連ブログ