本記事で触れているGoogleアナリティクスは、ユニバーサルアナリティクス(UA)を前提としています。
GA4を対象とした記事ではございませんので、ご注意ください。

【2018/10/18更新】

Bingに続き、FacebookもファーストパーティCookieオプションが用意され、Bing同様の対応が必要になり、記事を更新。

【2018/12/26更新】

Google、Facebook、Bingに続き、日本の検索エンジンシェア2位であるYahooでもファーストパーティCookieオプションが提供され、記事を更新。

ITPが広告プラットフォームに及ぼした影響

ITP(Intelligent Tracking Prevention)については良記事がたくさん存在するので詳説は他に譲りますが、アメリカでシェアNo.2の検索広告プラットフォームであるBingの仕様変更と、これに伴いGoogleアナリティクスを利用する視点で必要となる対応について書きたいと思います。

※記事を読む時間がない方は「まとめ」にチェックリストがありますので、そちらをご覧ください。

簡単にITPをおさらい

ITPの要点としては(かなり意訳すると)、
多くの広告プラットフォームでは、コンバージョン計測のためにサードパーティCookieを利用している。
iOS11やmacOS10.13以降のSafariでは、そのサードパーティCookieの寿命が24時間以内に制限される仕様(ITP1.0)が導入された。
そのため広告のクリック後、数日経過後に発生するコンバージョン(いわゆる「戻りコンバージョン」)の発生をSafariで検知できない場合が発生することに。
結果として広告のコンバージョン数が従来より少なくカウントされる可能性が懸念された。
というものでした。

これはユーザー保護の観点で導入された、ということになっていますが、広告を出稿する側(広告主にしても広告代理店にしても)からすると、これまでカウントできていたコンバージョンがカウントできなくなるわけですから、商材によっては(特に検討期間が2日以上に渡るものでは)大きな問題となり得ます。

そこでGoogle広告(旧AdWords)はこれに対し、

  1. Global Site Tag (gtag)を利用する方法
  2. GoogleアナリティクスとGoogle広告(旧AdWords)を自動タグ連携させる方法
  3. Googleタグマネージャによりコンバージョンリンカータグを挿入する方法

のいずれかの対策をとることで、コンバージョントラッキングの精度を維持することができる、との指針を示しました。

Inside AdWords: The importance of site-wide tagging for accurate conversion measurement
https://adwords.googleblog.com/2017/10/site-wide-tagging.html

ここで重要なことは、Google広告(旧AdWords)では技術的に下記の仕様変更を行い、
ファーストパーティCookieを利用することでITPのサードパーティCookieの寿命制限を補っている、ということです。

  1. 広告のリンク先URLに、Googleのサーバから「?gclid=XXXX」(クリックID)というクエリパラメータが付与される。
  2. 広告のリンク先ドメイン内では、上記A〜Cの方法を使ってクエリパラメータからクリックIDを取得し、それをファーストパーティCookieとして保存する。
  3. 結果、ITPの影響を受けないCookieを新たに付与することでトラッキング精度を維持する。

※Google広告(旧AdWords)のITP対応に関する詳細な注意点については、山田良太がSEM Technologyにて書いていますのでそちらをご参照ください。

AdWordsのITP対応を正確に理解するために
https://sem-technology.info/ja/google-adwords/adwords-itp

ITPは落ち着いたのか?

すでに話題としてのブームが去りつつあるITPですが、その余波はまだ続いていたようです。
2018年1月31日にSearch Engine Landに掲載された下記の記事では、Bingの検索広告で次の仕様変更があったことがアナウンスされています。

  1. サイト全ページにUniversal Event Tracking (UET) タグを実装する(Google広告(旧AdWords)のコンバージョンリンカータグやgtagに相当する機能を含む)
  2. Bingの管理画面でパラメータ設定をONにすると広告のリンク先URLに「msclkid=XXXX」というパラメータが付与される(Google広告(旧AdWords)のgclidに相当)
  3. パラメータ付きのURLでページが表示されると、UETタグによりパラメータ値がファーストパーティCookieとして格納され、90日間の有効期限で記録される

Bing Ads has a conversion tracking fix for Apple’s Intelligent Tracking Prevention
https://searchengineland.com/bing-ads-apple-intelligent-tracking-prevention-response-conversion-tracking-290763

つまり、BingがGoogle広告(旧AdWords)と同様の対応をする、と宣言し、その機能がONになっているアカウントが存在する、というのが2018年2月現在です。

さらに2018年9月、ITP2.0が公開されました。これによりバージョンアップされたSafariでは、基本的にサードパーティCookieを書き込むことが不可能となりました。
これにより媒体各社ではITPに対応する動きが加速していると見られます。

Bingはアメリカで第2位の検索エンジン

ちなみにMicrosoft社が検索エンジンとして提供しているBingは、日本だとGoogle/Yahoo検索に比べてかなりマイナーな印象ですが、アメリカではGoogleに次ぐ検索数シェア第2位の検索エンジンとして知られています。
Share of search queries handled by leading U.S. search engine providers as of April 2017

https://www.statista.com/statistics/267161/market-share-of-search-engines-in-the-united-states/

検索エンジンシェアで見ると、2017年4月のマーケットシェアはGoogleが63.4%、Microsoft Sites(Bing検索を含む)が22.8%です。
またアメリカのYahooもBingが検索エンジンを提供しているため、これらを合算すると34.5%の検索シェアを占めており、アメリカでは決して無視できない検索エンジンです。

つまり、アメリカの検索エンジンシェアトップ2がとったITPへのトラッキング対策が、従来から利用していたサードパーティCookieによるトラッキングに加えて、ファーストパーティCookieも利用する方針となった、ということです。

FacebookもBing、Google広告(旧AdWords)と同様の対応を開始

Facebookは言わずと知れた世界最大のSNSですが、ディスプレイ広告では収益ベースでGoogleを凌ぐ広告媒体です。

Net digital display ad market share of major ad-selling companies in the United States from 2016 to 2019

https://www.statista.com/statistics/237208/digital-display-ad-market-share-of-major-ad-selling-companies-in-the-us-by-revenue/

ITP2.0公開の影響を受けて、Facebookでも2018年10月24日以降、ファーストパーティCookie併用オプションが提供開始となります。

FacebookピクセルのCookie設定 | Facebookヘルプセンター
https://www.facebook.com/business/help/471978536642445

2018年10月19日現在、すでにアーリーアクセスの利用が可能となっていますが、今後はデフォルトでファーストパーティCookie併用オプションがONとなります。

この機能がONとなっている場合、広告のリンク先URLに「fbclid=XXXX」なるパラメータが付与され、Facebook PixelはこれをCookieに書き込むことが可能になります。

日本国内でも同様の動き

2018年11月22日、日本国内でもYahoo! プロモーション広告 スポンサードサーチ (YahooSS)も、ファーストパーティCookieオプション(YahooSS管理画面では「自動タグ設定」)が追加され、一部のユーザーにアナウンスされた模様です。
Yahoo!ディスプレイアドネットワーク (YDN)は2018年12月21日時点では未対応ですが、今後対応していくことも同時にアナウンスされています。

YahooSSでもBing同様、

  • サイト全ページにサイトジェネラルタグを実装する
  • YahooSSの管理画面で自動タグ設定をONにすると広告のリンク先URLに「yclid=YSS.XXXX」というパラメータが付与される

の2つの手順を踏む必要がありますが、公式にはアナウンスされていないため、現段階ではGoogle広告主コミュニティに投稿された内容と管理画面キャプチャ画像をご紹介するに留めておきます。

サイトジェネラルタグの実装

解決済み: 【スポンサードサーチ】サイトジェネラルタグ実装について – Google 広告主コミュニティ

https://www.ja.advertisercommunity.com/t5/%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96-Google-%E5%BA%83%E5%91%8A/%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%81-%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8D%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%82%B0%E5%AE%9F%E8%A3%85%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/td-p/114713

自動タグ設定の方法

ITPの影響は今後も広がる?

これは著者の想像ですが、今後他の広告プラットフォームでも同様の対応を実施するところが出てくるのではないでしょうか。
なぜなら、世界の検索広告市場を牽引するアメリカの、トップシェア2位までが「ファーストパーティCookieによるトラッキング補助が現状の最適解」と判断したと読み解けるためです。

ですので、企業マーケターとしては今後、広告プラットフォームの変化は注視しておき、タグのアップデートなどがあればコンバージョン数の変化要因として頭に入れておく、というアンテナを立ててしておくと良いかもしれません。

ITP対応におけるGoogleアナリティクスの対応

ここまで広告プラットフォームの変化を追ってきましたが、サードパーティCookie利用に加えてファーストパーティCookieを利用する方針に切り替えたとしても、まだ補いきれない部分もあります。

ファーストパーティCookieが越えられないドメインの壁

サードパーティCookieには、ドメインに縛られずに計測が可能、というメリットがあります。だからこそGoogle広告(旧AdWords)やBingやFacebook、YahooSSをはじめとする各種広告プラットフォームはサードパーティCookieを使い続けてきました。

今回のGoogle広告(旧AdWords)やBingの対応は、従来通りサードパーティCookieを利用しつつ、補助的にファーストパーティCookieも利用することでITPの影響を最小限にする、という対応です。
ファーストパーティCookieが保存されるのは、広告のランディングページがあるドメインとなるため、ランディングページ閲覧後に別ドメインへの遷移が発生すると、遷移先のドメインにはファーストパーティCookieが存在しない状態になります。

例えば決済ASPを使っているサイトでは、
広告のランディングページがあるドメイン ( www.example.com )と、
コンバージョンが発生するドメイン( www.asp.co.jp )
が別になる(ユーザーが複数のドメインを跨いで閲覧する)場合が考えられ、そのようなサイトでは戻りコンバージョンが計測できない状況が引き続き発生します。

Googleアナリティクスはどうなっているのか

ファーストパーティCookieといえば、Googleアナリティクスで利用しているCookieもファーストパーティCookieです。では同様にドメインを越えてトラッキングできない状況に、いかにして対応しているのでしょうか。

ご存知の方も多いと思いますが、ここで必要になる機能がクロスドメイン トラッキングです。クロスドメイン トラッキングはデフォルトのタグのままではONになっておらず、タグの編集を行うことで機能させる必要がありますが、これを実施することでユーザーの流れをドメインに分断されることなく追跡することが可能になります。

クロスドメイン トラッキング | ウェブ向けアナリティクス(analytics.js) | Google Developers
https://developers.google.com/analytics/devguides/collection/analyticsjs/cross-domain?hl=ja

幸い、Googleアナリティクスと自動タグ連携しているGoogle広告(旧AdWords)では、クロスドメイン トラッキングを設定できていればGoogle広告(旧AdWords)のコンバージョンも正しく計測できる、と言われていますが、BingやFacebookなど他の広告プラットフォームではそのことには触れられていません。

よって、ITPによりコンバージョン数が減少する可能性がある広告プラットフォームを利用している場合、クロスドメイン トラッキングが設定されているGoogleアナリティクスのプロパティがあれば、広告のコンバージョン数との乖離を見出したり、計測をGoogleアナリティクスで代替する、といった対策が打てるでしょう。

Googleアナリティクスで設定しておくべき除外パラメータ

ここまで読んで、すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、Bing・Facebook・YahooSSといった広告を運用しているサイトでは、クロスドメイン トラッキング以外に、除外パラメータ設定をしておいた方が良いでしょう。

Googleアナリティクスの「管理」メニューから、ビューの設定を選択し、「除外する URL クエリパラメータ」の欄に「msclkid,fbclid,yclid」を入力します。

ビューの設定については下記ヘルプに詳説がありますので、こちらも参照しながら設定してください。

ビュー設定を編集する – アナリティクス ヘルプ
https://support.google.com/analytics/answer/1010249?hl=ja

この設定をしていない場合、Googleアナリティクスのレポート内では「?msclkid=XXXX」や「?fbclid=XXXX」「?yclid=YSS.XXXX」といったパラメータ付きのURLがページレポートに表示されるようになってしまい、ランディングページの評価がしづらくなるので、早めに対応しておきたいところです。

まとめ

ITPによる影響を考察してきましたが、BingやFacebook、YahooSSで集客しているサイトのGoogleアナリティクスでチェックすべきポイントは以下2点です。

  1. ドメインが複数あるサイトの場合クロスドメイン トラッキングが設定されているか
  2. 除外パラメータ設定に「msclkid」「fbclid」「yclid」を追記しているか

また先述の通り、今後他のプラットフォームもBingやFacebook、YahooSSのようにファーストパーティCookieを利用するようになることも考えられます。これに備える意味でも、上記1,2の対応を確認しておくと良いでしょう。

コンバージョン数が変化したタイミングなどがあれば、このような対応の影響を受けている可能性もありますので、ご自身のサイトで使っている広告プラットフォームについて調べてみると良いかもしれません。

お気軽にご質問、ご相談ください

関連タグ

似田貝亮介

千葉大学工学部卒。データ解析エンジニア。

関連資料

関連ブログ