ITPの今までの変遷

ITP(Intelligent Tracking Prevention)は、Apple社によるiOSデバイスへのサイトトラッキング抑止機能の1つです。

最初のバージョンは、2017年9月に発表され、iOS11を対象に、サードパーティーCookieの利用制限が行われました。

その後、一般の開発者によるITPに対する回避策の考案・実装と、Apple社によるITPのバージョンアップといういたちごっこにより、2021年4月時点のITPでは、サードパーティーCookieだけでなく、

  • ファーストパーティーCookie
  • Indexed DBやローカルストレージ
  • リファラー情報

などにも制約が及んでいます。

GAの計測データへの影響

ではITPによって、Googleアナリティクスの計測データはどのように影響を受けているのでしょうか。実際のデータを見ながらその影響を確認しました。

前提となるデータについて

  • GoogleアナリティクスのレポーティングAPIを用いて、2017年01月以降の計測データを10サイト分月単位で取得する
    • ディメンションには、年月・デバイスカテゴリ・OS・OSバージョン・ブラウザ・セッションの間隔(日数)を指定。
    • 指標には、セッション・ユーザー・新規ユーザーを指定。
  • スマートフォンユーザー(デバイスカテゴリ = mobile)で絞り込む(タブレット端末も母数は少ないので対象外とする)。
  • Windows PhoneやBlackverry、Playstation Vitaなどもmobileに含まれるが、メインとなるOSである「iOS」「Android」の2OSのみで絞り込む。
  • OS =「iOS」であり、ブラウザが「Safari」「Safari (in-app)」である来訪を「ITP対象ブラウザ」と定義し、それ以外の来訪を「対象外ブラウザ」と定義しています。

仮説1: 新規ユーザー比率は高まったのか

iOS Safariブラウザでの来訪の場合、ITPにより、Googleアナリティクスが同一ユーザーを識別するために用いているCookie情報である「クライアントID」が一定期間で削除されてしまうため、理論上Googleアナリティクスにおいて新規ユーザー比率が高まると考えられます。

この仮説を検証するために、計測したデータを「ITP対象ブラウザ」「対象外ブラウザ」に分類し、新規ユーザー率(=新規ユーザー数 / セッション数)の月推移を見てみました(下図)。


(図: 「ITP対象ブラウザ」と「対象外ブラウザ」の新規ユーザー率の月推移)

2017年1月時点では、これらの差は約13ポイントでしたが、約4年かけてその差が約7ポイントまで縮まってきました。仮説では、「対象外ブラウザ」よりも大きな勢いで「ITP対象ブラウザ」の新規ユーザー率は高まるはずでした。

しかしながら、実際の数値上はそのような結果とはなりませんでした。

念の為、「ITP対象ブラウザ」の来訪者のOSがきちんとアップデートされていることを確認しておきます。

以下は、「ITP対象ブラウザ」に絞り、ブラウザバージョンを元にしたITPのバージョンごとのセッション・シェアの推移を100%積み上げ面グラフにしたものです。


(図: ITPのバージョンごとのセッション・シェアの推移)

このグラフを見て分かるように、極端に古いバージョンのブラウザを使い続けている人の影響ではなさそうです。

もう1つ、ITPバージョンごとの新規ユーザー率の変化についても見てみます。

一番下の「ITP update 20201105」で新規ユーザー率が少し高まっているところが気になりますが、少なくともそれ以前は、ITPの影響により新規ユーザー率が高まっているとは言えなさそうです。

これらをまとめると、仮説1として掲げた

iOS Safariブラウザでの来訪の場合、ITPにより、Googleアナリティクスが同一ユーザーを識別するために用いているCookie情報である「クライアントID」が一定期間で削除されてしまうため、理論上Googleアナリティクスにおいて新規ユーザー比率が高まると考えられます。

は必ずしも正しいとは言えそうにありません。

仮説2: ユーザーの再来訪期間は?

仮設1として挙げたものがデータで実証することができなかったことから、「ITPが本来の仕様通りに動作していない」もしくは「ITPの現在の制限であるCookieの有効期限7日間を超えてサイトに再訪するケースが極僅かである」のどちらかだと考えられます。

では、この仮説を検証していきましょう。

この仮説の検証には、「セッションの間隔(日数)」というディメンションを利用します。このディメンションを使ったレポートは、標準レポートでも「ユーザー > 行動 > リピートの回数や間隔」から、「セッションの間隔(日数)」レポートを表示することで確認できます(下図参照)。


(図: 「セッションの間隔(日数)」レポートの確認方法)

以下が、2021年1月〜3月の「ITP対象ブラウザ」「対象外ブラウザ」別にセッションの間隔(日数)のセッション数の内訳を図にしたものです。

少し見にくくなっていますが、「ITP対象ブラウザ」に比べて「対象外ブラウザ」のほうが、8日以上の間隔を空けた再来訪が多くなっています。具体的には「ITP対象ブラウザ」は3%ほどであるのに対して、「対象外ブラウザ」は11%ほどとなっています。

また、「セッションの間隔(日数)」が0日である割合も「ITP対象ブラウザ」の88%と「対象外ブラウザ」の76%で10%近い差異が出ています。

注意すべきは、「セッションの間隔(日数)」が0日の計測値には「新規ユーザー」だけでなく、同日中の2回目以降の訪問も含まれるということです。新規ユーザー率には大きな影響を与えていなかったにも関わらず「セッションの間隔(日数)」に差異が出ているところが興味深い結果となっています。

また、「ITP対象ブラウザ」であっても、「間隔=8-14日」「間隔=15-30日」のセッションが僅かながら計測されています。もしかしたらITPの動作として必ず1stパーティーCookieを削除していない可能性も考えられます。

まとめ

今回は、Appleによるサイトトラッキング抑止機能である「ITP」の結果、Googleアナリティクスのレポート結果がどのように変わったのかを見てきました。

結果、今回調査した数サイトでは、「新規ユーザーとカウントされる割合が増えた」といった現象は発生しませんでした。もちろん、これは運営するサイトの性質やマーケティング施策によっても変わってくると思います。

ITPが強化されるたびに、その仕様の穴を突くITP対策が考えられるといういたちごっこという状態になってから数年が経ちますが、まずは自身のサイトのWeb分析で本当にITPが脅威であるのか、Googleアナリティクスなどのレポートで確認してみると良いでしょう。

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山田良太

テクノロジー開発室長。チーフテクノロジーマネージャー。10年以上のプログラミング経験を活かして、Webマーケティングのテクノロジー領域(APIを使ったシステム開発や、タグ実装など)を中心に取り組む。

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