本記事で触れているGoogleアナリティクスは、ユニバーサルアナリティクス(UA)を前提としています。
GA4を対象とした記事ではございませんので、ご注意ください。

電話コンバージョンの課題

電話による問合せをコンバージョンとするサイトで気になるのが、間違えて電話をかけてしまいそうになったユーザーのタップやクリックが計測されてしまうことです。
この場合にさらに問題となるのが、誤タップによって電話コンバージョンタグが動作し、広告の管理画面では成果がよさそうに見えるもののビジネス上の成果が出ていない、という現象が発生することです。
誤タップと正常な通話の違いの識別方法の1つとしては、通話時間の長さを利用することができます。誤タップであれば通話時間はせいぜい10秒以内、通常の通話ができれば(商材によりますが)1分くらいは話すと考えられます。
ウェブ上の行動でこれをトラッキングし数値化することができれば、より正確にコンバージョンを測定でき、キャンペーンの最適化、予算配分の最適化の精度が高まるはずです。

コールトラッキングの精度を高める技術

2017年9月からプリンシプル社に参画している山田 良太の個人ブログ「SEM Technology」には、この電話コンバージョンの課題を解決するGTM実装の記事があります。
■無料でコールトラッキングの精度を高める技術 | SEM Technology
https://sem-technology.info/ja/google-analytics/call-tracking
実装の詳細についてはSEM Technologyに譲りますが、要点をまとめると
a) JavaScriptを使うことで通話時間を推測することができる
b) 通話時間を「電話タップが発生したとき」(電話アプリを開いたとき)から「ユーザーが再びサイトの閲覧を開始したとき」と定義し、計測に利用する
c) 通話時間は100%正しく計測できるわけではないが、「誤タップ」したユーザーは(b)の時間が10秒以内などの極めて短い時間で発生することが予想される
d) よって、電話タップの「質」を推し量る指標として期待できる
e) 通話時間を計測するツールは通常有料だが、この方法は無料で実施可能
というもの。
この記事が公開されたのは2017年2月2日ですが、当時この記事を読んだ弊社エンジニア陣の感想は「この実装だと通話時間を精度高く捕捉するのは難しそうだ」でした。
なぜなら電話で用事を済ませた人が再びサイトに戻ってくる”理由”に乏しいため。
私は最近銀行に電話をする用事がありました。その際、スマートフォンサイトで電話番号を調べ、タップして通話をしましたが、「電話番号が知りたかったからサイトを訪問しただけ」だったので、通話が終了したらサイトに戻る理由はありませんでした。
つまり、コンバージョンの定義として利用している電話リンクタップイベントを置き換え、代わりにこの実装をすることで誤タップを計測しない上に、通話時間をトラッキングしてコンバージョンを計測できるか、という疑問に対する回答としては「これでは不十分」という見方をしていたのです。

実装目的は「誤タップの可視化」

しかしこの実装に対する認識は間違いだったことに気づかされました。
正常に通話した人がその直後にサイトに戻って来る可能性は100%ではないので、適当に見積もって50%程度だとしましょう。この捕捉率では「正確に通話時間をトラッキングできている」とは言えません。
しかし誤タップした人はどのような行動をとるでしょうか。
あるページを閲覧するとき、その人には閲覧の目的があるはずです。
例えば住所を探すことを目的とした閲覧中に誤タップで電話をかけてしまいそうになったとしましょう。住所を探している最中に、間違えてそのページにあった電話リンクをクリックしてしまったら、おそらくその電話はキャンセルし、再度ページの閲覧に戻って本来の目的である「住所を探す」という行動をとるのではないでしょうか。
この「誤タップ→電話キャンセル→再度ページの閲覧を開始する」という行動は、
① おそらく10秒以内に完結し、
② 高確率で「間違えて電話をかけてしまった」人が再度閲覧を開始する
と考えられないでしょうか。
すなわちこの実装の真の目的は「通話時間」を可視化することではなく、「誤タップする人がとりがちな行動」を可視化することにあったのです。

実装対象のサイト

今回はパソコンやMacの修理を専門的に取り扱う 株式会社 パソコンドック24 様に全面的にご協力いただき、Web広告のランディングページ検討材料としてGTMの実装及びレポートデータをご提供いただきました。
株式会社 パソコンドック24
www.pcdock24.com

パソコンドック24 様は一般的なパソコンの修理もさることながら、Mac(Apple社製のPC)修理において強みを持たれている上、全国に60店舗近くの店舗を持たれている、業界屈指のパソコン修理専業の事業者様です。
なお株式会社プリンシプルはGAIQをコンサルタント全員が取得していることを強みとしていますが、パソコンドック24様は全店舗で「パソコン整備士」の資格をお持ちのスタッフがサービス提供されているという点において、弊社とのシンパシーを感じています。
サイトのコンバージョンポイントはWebでの問合せと電話問合せとなっており、
「店舗一覧ページで多くコンバージョン(=電話タップ)が発生しているが、これがどのくらい価値をもたらしているのか知りたい」
という課題感をお持ちでしたので、今回の実装を行うことで意思決定の材料としていただくことにしました。

Googleアナリティクスのレポートデータ

SEM Technologyの実装で取得できたある期間のデータを、Googleアナリティクスのイベントレポートで確認するとこのようなデータの見え方となります。

上位のイベント(イベント カテゴリ)レポート

イベント カテゴリ「tel-click」が通常の電話タップイベントです。
イベント カテゴリ「call-duration」が今回実装した「電話番号リンクをタップしたタイミングではイベントを送信せずに、タップした後サイトに戻ってきたタイミングでイベントを送信」したイベントです。(以下、「通話時間イベント」)
通話時間イベントでは、イベントの値として電話タップ~通話が終わって再度サイトを閲覧するまでの秒数を記録しており、イベント カテゴリレポートではその合計値と平均値が表示されます。
平均値の指標を見ると「488.14」とあるので、「1回平均約8分の通話時間」というのがおおよその目安になりそうです。

このレポートのイベント数を見ると、「call-durationイベント=電話タップのあとサイトに戻ってきた件数」は「tel-clickイベント=タップされた総数」の60%程度ありますので、このサイトでは、先の適当に見積もった50%よりは捕捉率が高そうである、ということがこのデータからわかります。
この捕捉できなかった30~40%は、そのままサイトから離脱したケースと思われますが、「それらのケースは正常に電話をしてサイトを離脱した」と考えられるため、今回の「誤タップ」と思しきイベントを特定する上では特に問題ないと考えています。

Tableauによる可視化

通話時間の分布

次に誤タップと思しき電話タップが全体でどの程度あるのか把握するため、時間単位ごとの通話時間をTableauで確認してみます。

上記グラフから、0秒~10秒台のイベントが全体に占める割合が約37%ということがわかります。
前述のとおり、誤タップで電話をかけてしまいそうになった場合、通話をキャンセルして本来閲覧したかった情報を探すためにページの閲覧を続ける、という行動が想定されるので、通話時間10秒以下のイベントは誤タップであると考えられます。
想定よりも短い通話時間(10~20秒台)の電話が頻発している場合は、イベント発生日時などを確認したり、コールセンターと連携するなどして原因を探ってみるといいと思います。例えば、「通話中や営業時間外などで機会損失が発生している」ことが判明することもあり得ます。
誤タップが無視できない頻度で発生していることがこのツリーマップでわかりました。
では、どのようなページでより誤タップが発生しやすくなっているのでしょうか。

ページカテゴリ別の通話時間

ページを大きく7種類に分類して、それぞれのページで発生した通話時間イベントを可視化することで、ページに課題がないかを確認してみます。

左側には各ページカテゴリで発生している通話イベントの秒数の実数が、右側には構成比率が、それぞれあらわされています。
通話イベントが発生している件数としては「個別店舗ページ」が最も多く、「店舗一覧ページ」がその次に多くなっており、質の低い通話イベントも同等に発生していることがわかります。
一方でその構成比率を見ると「個別店舗ページ」では質の低い通話イベント発生頻度が20%程度となっており、他のページと比べてもそれほど悪くなさそうですが、対して「店舗一覧ページ」では質の低い通話イベントが8割以上を占めることがわかります。
2つのグラフから、「Mac修理関連ページ」と「店舗一覧ページ」では、「店舗一覧ページ」のタップ回数が多いですが、10秒以上の通話に絞ると、「Mac修理関連ページ」のタップ回数の方が上回ることがわかります。タップ回数を指標にしていると、「店舗一覧ページ」が効果の高いページである、と誤った結論を招くこともありそうです。

数字が目立ったページを見てみる

ではそれらのページは一体どのようなページなのか、2つのページをスマホで見てみましょう。

店舗一覧ページ

まずは誤タップ率の高かった店舗一覧ページ。
ご覧いただくと、ちょうど右利きの人が右手でスマホを使ってスクロールしようと親指を置きそうな位置に電話番号のリストが並んでいる形です。
おそらくタップしやすい位置に電話番号を配置する、という配慮だと思われますが、同時に誤タップが発生しやすい状態となり、ユーザビリティが下がっていることが推測されます。

各店舗ページ

ファーストビュー

スクロール後

一方の各店舗ページはCall To Actionがファーストビューにある以外問題なさそうですが、スクロールダウンしていくと画面右下に電話リンクが表示されます。
こういったページ内のリンク配置改善等を実施することで、正しいコンバージョン数の計測に一歩ずつ近づけるかもしれません。

電話コンバージョンの質を踏まえた結論

ここまでの分析を踏まえて、弊社から パソコンドック24様 へのご提案としては以下のように報告させていただきました。
① ページ自体を誤タップが起きにくいデザインに改修していただくこと
②訪問数が多いページからの流入を個別店舗に誘導するナビゲーションの改善も視野に入れていただくこと

まとめ

SEM Technologyの「無料でコールトラッキングの精度を高める技術」を電話コンバージョンのあるサイトに使うことで、広告運用のヒントを見つけられることが確認できました。
ご自身のサイトでも本実装を使って無料で誤タップがないかを確認してみるといいかもしれません。

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似田貝亮介

千葉大学工学部卒。データ解析エンジニア。

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