画像:http://adage.com/article/news/consultancies-rising/308845/ より引用
以前、「Adageの2016年Agency Report」に関するブログの中で、米国ではデジタル領域では既存の広告代理店ではなく、IBMインタラクティブ、アクセンチュアデジタル、デロイトデジタルなどの戦略系コンサルティング会社のデジタル部門がその領域でのシェアを広げており、デジタルAgency市場TOP5のうち、4社を既存の広告代理店以外の会社占めていることをお伝えしている。
これらの会社は例えば2016年2月に米デロイトデジタルが、カンヌ8冠の米カリフォルニアの制作会社HEAT社を買収するなど、急速にクリエティブ・コミュニケーション領域に買収などの手段で参入してきている。
日本でも同様に2016年にアクセンチュアがIMJの買収を発表すると、電通が電通デジタルを設立し、今までの媒体を売る営業スタイルから、デジタル戦略、コミュニケーション戦略をコンサルティング会社としてサービスを提供するなど、世界のデジタルマーケティング業界の波が押し寄せてきている。
当社も2011年にGoogleアナリティクスに特化したコンサルティング会社としてスタートしたが、クライアントが抱えている課題は”広告をどこに打つか?”ではなく、今まで見えにくかったユーザー行動をデータで可視化し、課題を発見し、解決策を提案する、というデータドリブンなコンサルティングサービスが原点となっている。
現在は、データドリブンな戦略立案とKPIデータ取得、そして広告やクリエイティブを高いレベルで実行するサービスへと進化しているが、そのモデルはアメリカで起きているまさにデジタルマーケティング業界の地殻変動である。
筆者は日頃シリコンバレーにいることで米国のAgency事情に触れることが多いが、今回は2017年11月に書かれた同じくアメリカの広告業界のオピニオンリーダー的なAdageの記事を翻訳することで、米国のデジタルマーケティングの現場で実際に起こっている地殻変動を伝えられればと思っている。
この記事でカギとなっているは、企業にとって新規ユーザーを獲得するマーケティングという重要な活動を、「顧客体験の”頭痛の種”をデータで見つけ出し、従来の広告という手法だけに頼って解決しないコンサルティング会社的なアプローチ」である。また文中のコカ・コーラ社のイワン・ポラード氏の「これからは、 データ利用とクリエーティビティーの組み合わせが将来の勝ち抜きを左右する 」は業界に携わるものとして非常に響く言葉である。
以下は2017年11月に書かれたAdageのホームページのE.J. SCHULTZ氏の”THE RACE IS ON!
How IBM, Accenture, PwC and Deloitte Are Shaking Up the Marketing Industry” の
記事を、翻訳し、要約したものである。
原文:http://adage.com/article/news/consultancies-rising/308845/
画像等本文より引用
目次:

  1. ・ブランド構築は「広告」ではなく、「顧客体験」が重要
  2. ・コンサル系デジタル会社が米デジタル市場のTOP5へ
  3. ・トップ4コンサルティング会社デジタル部門のシェア
  4. ・既存の広告代理店はコンテンツ運営面でまだ有利
  5. ・データとクリエイティブの組み合わせが将来を左右
  6. ・IBMはWatsonも活用しパーソナライズメッセージを届ける
  7. ・攻めに出るコンサル系デジタル会社
  8. ・コンサル会社の意欲的な買収
  9. ・コンサル会社に足りない創造性と今後の補完関係

ブランド構築は「広告」ではなく、「顧客体験」が重要


世界第6位の広告コンサルティング会社アクセンチュア・インターアクティブのシニアマネージングディレクターで、以前広告代理店の幹部も務めていたウィップル氏。
彼の語り口からは、今までのスタイルの広告というものに期待を感じていないような印象を受ける。
ウィップル氏は、「もはやブランドは広告によって作られるものではない。一番大切なのはそれぞれの顧客体験(ユーザーエクスペリエンス)であり、アクセンチュアもそれに最も注目をしている。」と語る。
今までに、広告代理店は大手クライアントの広告の提案の場でコンサルティング会社と競合することはなかったが、アクセンチュア、PwC、IBM、デロイトなどのデジタル部門は現実的な脅威となっている。
これらのコンサルティング会社は、マーケティングという領域において、顧客体験を可視化し、従来の大手広告会社の広告という手段以外の手法も視野に入れながら、膨大な数の戦略的そしてデータ分析ソリューションを駆使ながらクリエイティブサービスとコンテンツマーケティングを行なっている。

コンサル系デジタル会社が米デジタル市場のTOP5へ

アクセンチュア、PwC、IBM、デロイトのマーケティングサービスの合算収入が132億ドルに達した。この数は、これら4社がWPP、オムニコン、パブリシスグループ、インターパブリック、電通 を抜き世界最大規模広告代理店10社のランキングに入ったことを示す(「Adageの2016年Agency Report」参照)。

このような収入の増加は、買収、自然成長、新規ビジネス、(組織の)地理的拡大、そしてこれまでに扱われてこなかったマーケティング関連サービスの拡大の結果である。そして、これらは大型広告代理店に大きな不安を与えている。
「今後は、WPPとオムニコムの間の競争ではなく、コンサルティング会社同士の競争が激しくなるだろう」と、今年初めにパブリシスグループのレオ・バーネット北米のCEOアンドリュー・スイナンド氏は予測していた。

トップ4コンサルティング会社デジタル部門のシェア


参考:$1.0Bは約1100億円(2017年12月時点)
出所:Ad Age Datacenter analysis of 2016 worldwide revenue
アクセンチュア:2016年8月に終了した会計年度の純収益
DELOITTE:2016年度のデロイトのデジタル収入。 2016年5月期のデロイトの収益
IBM CORP .: 2016度のAd Age Datacenterによって予測されるIBMインタラクティブの収益。 IBM Corp.は2016度の収益
PWC:2016度のPwCデジタルサービス収益。 2016年6月期のPwC純収益。
画像:http://adage.com/article/news/consultancies-rising/308845/ より引用
今後の生き残りは、「クリエーティブな広告代理店を買収して彼らの提供するサービスをいかに自分たちのものにするのか、ではなく、我々自身がクリエーティブな存在としてどれだけ迅速に消費者のデータを取り入れていくかにかかっている」と加えた。
老舗の広告代理店と新しい コンサルティング会社が現場レベルで競合することはまだ少ない。しかし、彼らは、世界のトップレベルの契約を狙って常に衝突している。
アクセンチュアはフォーチュン・グローバル500企業の4分の3に、そしてTOP100位企業の94社以上にサービスを提供していると言及しているが、 広告代理店の代表格であるWPPもフォーチュン・グローバル500のサービス360およびダウ・ジョーンズ全30社にサービスを提供しており、 彼らは同じクライアントの取り合いをしている。

既存の広告代理店はコンテンツ運営面でまだ有利

Forresterの調査によると、企業のマーケティング担当者の73%がデジタルマーケティングのコンサルティング会社に興味があると回答(内14%は「非常に興味がある」と回答した)。
広告代理店は、戦略的コンサルティングとデータ統合を強化して、ワンストップソリューションを提供しようとしている。
そこでレオ・バーネットが生み出したのはThe Coreと呼ばれる新しいサービス。The Coreは顧客のためによりパーソナライズされたコンテンツを作成するという目的で、広告代理店のデータ、分析、研究、CRM、および検索技術の機能を統合する。
また、Forresterは、企業の76%がコンテンツマーケティングの予算を増やしていると発表。キャンペーンを作成して配信すること、つまり業務の中に入り込んで実行をすることは、まだまだ既存の広告代理店の依然強い領域であると付け加えた。

データとクリエイティブの組み合わせが将来を左右

画像:http://adage.com/article/news/consultancies-rising/308845/ より引用
コカ・コーラの副会長で戦略的マーケティング担当 のイワン・ポラード氏は、 「大手コンサルティング会社はクリエイティビティーを過小評価し、広告代理店はビジネスアナリティックを無駄にしている。
これからは、 データ利用とクリエイティビティーの組み合わせが将来の勝ち抜きを左右する 」と述べる。
コンサルティング会社の増加は、マーケティングの変化を反映している。広告の妨害やテレビ視聴率の低下が著しい中、企業はテレビ広告や有料デジタル広告以外の方法で消費者に語りかける必要がある。
Googleがユーザーに有害だとするデジタル広告を制限するように、UberやAirbnbなどの新興企業が大きな広告予算をかけず従来のビジネスモデルに混乱をもたらすのと同様、今や広告よりも重視されるのは使いやすい消費者向けのインターフェイス。
そして、こうした進展は、大手広告代理店 に脅威をもたらし、コンサルティング会社に大きなチャンスを与える。

IBMはWatsonも活用しパーソナライズメッセージを届ける

「アクセンチュアは、2009年にアクセンチュア・インタラクティブを結成し、CMOがブランド目標だけでなく企業としての目標を重視するようになった。
そして、マーケティングが現在のような発展を始めた時、我々も複雑でグローバルかつ技術的なビジネス上に挑戦したいと考えた。結果、アクセンチュアはデジタルマーケティングの領域で成功した。」とアクセンチュア・インターアクティブ、ヒル・ホリデイ の最高執行責任者(COO)ウィップル氏。
「以前は、商品やサービスについて消費者がどのように感じるべきかを、広告会社が提示してきた。
しかし、そのようなやり方はもはや通用しない。アクセンチュアの哲学は、ブランドはECサイトや店頭での顧客との無数のやりとりを通じて構築されていると考える」と同氏は付け加える。
ジェネラルモーターズ、シティ、ビザ、バークレーズ等の顧客を持つIBMインタラクティブも同様の見解を示す。
「現代のブランドは、ブランド価値を消費者に叩き込もうとするのではなく、実際にサービスを経験して貰うというやり方でブランドを構築しようと務めている」と IBMインタラクティブの戦略と設計のグローバルリーダーであり、WPPの元グローバルマネージングディレクター、ロバート・シュアルツ氏は述べている。
昨年、IBMインタラクティブとジェネラル・モーターズは、IBM Watsonの認知能力とジェネラル・モーターズのOnStarサービスを掛け合わせたOnStar Goを発表。 OnStar Goは、ガソリンスタンド、宿泊施設、エンターテインメント、レストランを始めとするパーソナライズされたメッセージを運転手に提供することを目的とし、 エクソンモービル、グリンプス、アイハートラジオなどがこのプログラムに参加している。

コンサルティング会社 は業界のトップと握ることで案件に関わり、契約を獲得する為の わざわざ大きなTVキャンペーンなどで顧客獲得をしないのが特徴。
「コンサルティング会社に共通しているのは、 CEOやその他の幹部がマーケティングに関わっていることが多いというところ」と 電通子会社のデジタルマーケティングエージェンシー360iのCEOサラ・ホフステッターは語る。「コンサルティング会社は 広告代理店に比べて、大きな組織変更を伴うプロジェクトに携わることで結果的にコストを削減でき、割安だ、と言う。そして広告代理店は削除すべきコストだと見られます。ただ実際はコンサルティング会社は広告代理店よりも料金が高いです。ただ、高いと言うのは価値観の問題ですが。」と彼女は述べる。
また、「コンサルティング会社は時間で払う分、成果や獲得したものによって 精査されることが少い 。」とR / GAのグローバル・チーフ・ストラテジー・オフィサーバリー・ワックスマン は言う。

画像:http://adage.com/article/news/consultancies-rising/308845/ より引用
広告代理店検索会社ジョアン・デービス・コンサルティングのジョアンデービス氏は、「コンサルティング会社が従来のピッチをすることはめったにないが、彼らは広告代理店と肩を並べたいと思っている。
又、コンサルティング会社は自分たちも良質の広告代理店として見なされたいと言う気持を強く持っている」と述べる。
コンサルティング会社は、今年のフランス・リビエラで見られたように、カンヌ・ライオンズ国際創作フェスティバルでも自分たちの存在をアピールしようと計画している。
IBMインタラクティブは、昨年のスペースの2.5倍のブースを確保し、自分たちのデザイン思考を 展示する予定。
デロイトデジタルは、クリエイティブ領域の若手プロフェッショナルのための講義やコンテストを行っているカンヌ・ヤング・ライオンズスクールのスポンサーを務める。
その一方で、PwCデジタルサービスは、「クライアントとの仕事を公表する権利を交渉し始めた。」と、同グループのグローバル責任者であるデビッド・クラーク氏は語った。
「私たちは素晴らしい仕事をしているのに、それを知っている人たちがあまりいない 」とクラーク氏。コンサルティング会社が緻密に作り上げるスコープは、従来の広告代理店のそれとは比べ物にならないバックエンドとフロントエンドの包括的な展開が含む。

コンサル会社の意欲的な買収

昨年、アクセンチュア・インタラクティブは、サンドイッチの「SUBWAY」社のマーケティングに携わり「サブウエイデジタル」というアプリを手がけた。
サブウエイデジタルは、消費者の体験をパーソナライズする事を目的とし、アプリの向こう何年かにわたるスコープには、消費者向けのロイヤルティプログラムと、注文と支払い機能が組み込まれている。(先月サブウエイは、アクセンチュア・インタラクティブ元幹部のカーリン・リンハードを 北米のマーケティングに採用した。)
しかし、アクセンチュアの契約には、新しいアプリの認知度向上のための広告は含まれていない。
サブウェイはその仕事を従来の広告代理店、MMBに残す事を決めた。サブウェイのチーフデジタルオフィサー、カーマン・ウェンコフは「アクセンチュアが(その仕事を)将来的にするかもしれないが、今のところはそれは無い」と語った。
コンサルティング会社は、買収によって次の道を広げようとしている。 Forresterのアナリスト、アンジャリ・ユックンディ氏はブログの記事で、昨年までは、コンサルティング会社の多くがWebやモバイルの開発とユーザーエクスペリエンスの設計に関する専門知識を持つ広告代理店を買収することに固執していた。
しかし、2016年に入ると3つの意外な買収によって傾向が一転した。IBMはオハイオ州コロンバスに拠点を置くリソース/ アミラティを、デロイトはサンフランシスコのHEATを、そしてアクセンチュアはイギリスの独立系クリエイティブ・ショップ、カーマラマを買収した。
デロイトデジタルのCMOアリシア・ハッチ 氏は、「デロイトデジタルは、フル・サービスの広告代理店であるHEAT社を意図的に買収した 。
今後、より視野を広げ、もう一つクリエーティブな広告代理店を買収しようと考えている。去年HEAT社は、新しいLGスマートフォンを宣伝するキャンペーン契約を勝ち取った。
これは われわれがこの契約を勝ち取ったのはLGのビジネスを理解していたからだ。買収によって、私たちは他に負けない知能と、ビジネス戦略、クリエイティブなピッチ、そしてデータを最大に使った世界クラスのクリエイティブをひと纏めにすることが可能になった。」と述べた。

画像:http://adage.com/article/news/consultancies-rising/308845/ より引用

コンサル会社に足りない創造性と今後の補完関係

ある広告代理店の役員は、コンサルティング会社には創造性、クリエイティビティが 欠けていると感じているようだ。
360iのホフセッター氏は、次のように語る「広告代理店を買収し、それを統合ソリューションと呼ぶだけでは十分ではない。
コンサルティング会社はパーソナライゼーションとデータに重点​​を置き過ぎているが、広告代理店は細かすぎるくらいのターゲティングと幅広いブランド認知手法を組み合わせようとしている。人間は複雑なもので、マーケティングをするときに 1つのやり方でマーケティングをするなど、問題外。」と。
インターパブリックデジタルの広告代理店であるヒュージのCEO、アーロン・シャピロ 氏もこれに同意する。「 コンサルティング会社には、最高のデザイン、デジタル、クリエーティブな才能を引き付ける創造的かつ起業家的な文化が欠けている。 入社する人が多くても、 彼らが仕事がしやすく、仕事が評価される環境が与えられていない。」
コンサルティング会社の親会社の収益成長率は、広告代理店の収益成長率と大きくは変わらない。アクセンチュアの 純売上高は前年比5.9%増、デロイトの売上高は4.5%増、 PwCの純売上高は1.9%の増加、IBMの昨年の売上高は2.2%減少。 世界の最大の4つの大手広告代理店 、WPP、オムニコム・グループ、パブリシスグループインターバプリックグループ の世界的な売上高は前年比1.1%から3.7%に増加だけだった。 また同様に3月のアクセンチュアとWPPの株式は過去最高を記録した。
コンサルティング会社や広告代理店への将来は競争ではなく、協力に掛かっている。 ロス氏は、 4月21日の業績見通しで、「今から5年か6年後、 私たちもコンサルティング会社とパートナーシップを組んでいるかもしれない 」と語った。

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楠山健一郎

国際基督教大学卒。シャープ、サイバーエージェント、トムソン・ロイターを経て株式会社プリンシプル設立。

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